写真=Brian Whar, KAB America, Eiichi Yoshimura
坂本龍一の2018年6月は、まずアルヴァ・ノトとのコンサート『TWO』から始まった。
当初、アルヴァ・ノトことカールステン・ニコライから、ベルリンに“フンクハウス”というアーティスティックでユニークな会場があるからそこでひさしぶりにふたりで演奏しないかという提案があった。
この20年、多くの共作アルバムと、コンサート、そして映画『レヴェナント:蘇りし者』の映画音楽のコラボレーションなど親密な関係を保ってきたふたりは、『TWO』と名付けた共演コンサートを行なうことにしたのだが、せっかくやるのだからということで、スペイン・バルセロナで毎年6月に開催されている世界最大規模のエレクトロニック・ミュージックのフェスティバル『ソナー』へのヘッドライナーでの出演も決める。ソナーからはイベントの25周年記念ということで、坂本龍一に熱心な出演依頼が来ていたので渡りに船のような形だった。
ここで話がちょっとややこしくなるのだが、坂本龍一はこの6月に同じくロンドンで開催される『MODE 2018』というイベントのキューレーターを引き受けていた。病気が発覚する前の2014年に依頼され、ようやく今年に実現となったイベントでもある。『MODE 2018』は、ロンドンにある33-33という先進的な音楽レーベルも持つ音楽、アート系のイベント企画会社によるもの。
坂本龍一はロンドン各地(一部ブリストルやマンチェスターなどイギリス国内の他都市も含む)で行われる同イベントのキューレーションを依頼され、日本の空間現代やgoat、イギリスのCurlなど海外のミュージシャンやバンドのほか、現代美術家の毛利悠子のインスタレーションやパフォーマンスも推薦し、ほぼ希望通りの形で実現することになったが、この『MODE 2018』からはできればバービカン・センターで坂本龍一名義のライヴも行なって欲しいという要請も来ていた。
ベルリン、バルセロナとコンサートをやるならバービカン・センターでも『TWO』をやろう。こうして『TWO』のミニ・ツアーとも言える欧州3か所でのライヴが6月に行われることになったのだ。
バービカン・センターは1982年に開設されたコンサート・ホール、劇場、映画館、ギャラリー、図書館などを内包した巨大複合施設で、コンサート・ホールはロンドン交響楽団、BBC交響楽団の本拠地ともなっている約2000名収容の大ホールでもある。
一方、今年バービカン・センターは独自で『Japanese Innovators 音楽を変えた革新者たち』という先駆的な日本人アーティストのコンサート・シリーズを企画しており、すでに清水靖晃、池田亮司のプログラムが組まれていた。
こうしてバービカン・センターでは、この『Japanese Innovators~』と『MODE 2018』の共同企画という形で6月20日の坂本龍一+アルヴァ・ノトのコンサートの開催が決まったのだが、さらには、アメリカの先鋭的なインディ・レコード・レーベル“Light in the Attic”が企画していた細野晴臣のロンドン公演も『Japanese Innovators~』と“Light in the Attic”レコード、『MODE 2018』の3者共同主催として6月23日に組み入れられた。
近年、欧米では1970年代、1980年代の日本の音楽の発見や再評価の気運が高く、街のレコード・ショップに日本のポップスや前衛音楽のコーナーが設置されていたりもする。
偶然、その日本の音楽の最高峰に位置する2アーティストが同時期にイギリス~欧州でコンサートの企画があるということで、ここは主催の枠を乗り越えてみなで共催として盛り上げていこうとこのような形になったのだと思う。
そうした主催側の思惑はともかく、今回の坂本龍一+アルヴァ・ノトのパフォーマンス『TWO』の最終公演となった6月20日のバービカン・センターでのコンサートは大盛況。2000人弱の大きさのホールだが、チケットは発売早々に完売。当日はキャンセル待ちの当日券を求める長い列が発生していた。
演奏もすばらしかった。
坂本龍一+アルヴァ・ノトの共作アルバムはスタジオ録音作としては2011年の『Summvs』が最後だが、両者はその後も豊かな音楽的コラボレーションを重ねている。前述の『レヴェナント~』もそうだし、アメリカ・コネチカット州にある建築家フィリップ・ジョンソンのガラスの私邸で即興演奏を行なった名ライヴ・アルバム『GLASS』(2018年)もある。昨年末の東京・草月ホールでの『グレン・グールド・ギャザリング』(『教授動静』第一回参照)においてもクリスチャン・フェネスやフランチェスコ・トリスターノを交えた圧倒的なパフォーマンスを行った。
『TWO』と名付けられた今回の共演コンサートは、そうした、2011年以降の両者の交流が音に反映され、それ以前には希薄だった即興の要素も大幅に加味。カールステン・ニコライによる印象的なステージ美術もあいまって、ふたりの共同制作のひとつの完成形を提示して見せたと言ってもいいだろう。
終演後には『TWO』のミニ・ツアーの打ちあげもかねてということで、バック・ステージのパーティー・ルームにはふたりの知己のロンドン在住のたくさんのミュージシャンやクリエイターも集い賑やかな時間となった。
現在のところ坂本龍一+アルヴァ・ノトとしての次の活動はオーストラリアでの10月の『TWO』のコンサート。こちらも楽しみだ。