前イングランド銀行総裁、マーヴィン・キングが絶賛!主要国の金融行政を左右する気鋭のエコノミストがユーモアたっぷりに語る、ふつうの人のための資産運用の教科書『世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方』が刊行された。「金融マンの話は聞くな」「逆張りせよ」など刺激的な内容が話題の本書の「はじめに」を順次公開していこう。

前イングランド銀行総裁も絶賛!<br />『世界最強のエコノミストが教える<br />お金を増やす一番知的なやり方』の前文を公開(1)

素人が資産運用で成功する方法

 本書の目的は、あなたが自分自身の投資マネジャーになるための情報を提供することである。
 2008年の世界金融危機へとつながる「金融化」を分析した前著『金融に未来はあるか ウォール街、シティが認めたくなかった意外な真実』の相棒といった性格だ。
 前著では金融業界への批判を繰り広げたが、そこから2つの疑問が浮かび上がった。

 いかにして公共の利益を守るべきか?
 いかにして私自身の利益を守るべきか?

 前著の最終章では、最初の疑問への答えを示そうと試みた。そして本書では、2番目の疑問に答えようというわけである。

 ある意味で、今回の方が楽な仕事だ。
 金融業界を改革するには、政治家や規制当局者や市民を説き伏せる必要があるが、あなたの資産運用を改革するために説得しなければならないのは、あなただけだから。

 本書では投資にあたっての選択肢と、それらをあなたに売ろうとする金融機関について記していく。
 堅実な投資の原則を説明し、その土台となる研究の世界へとあなたをご案内しよう。

 堅実な投資というと、生産的な資産からリターンを得ることが基本だが、現代の経済では、そうした資産のほとんどを企業が所有している。
 だから、どんな企業が株主への価値を生み出せて、どんな企業ならダメなのかを明らかにし、企業の言い分の虚実を見分ける方法についても書いていくとしよう。

 利益の出る投資にはリスクが伴い、確実にリターンが得られるという保証はない。
 投資リスクの管理が下手なのは素人もプロも同じだが、その理由は異なる。
 本書では、なぜそうなってしまうのかを論じ、人のリスク判定方法を解明するために編み出された理論と、それらの理論が部分的に、あくまで部分的にだが、理にかなっている証拠について説明する。

 続いて、賢明なる投資家にふさわしい実践的な投資戦略へと筆を進めていく。
 基本原則は、

「なるべく手数料を払わない」
「なるべく分散する」
「横並び思考に逆らう」の3つ。

 戦略を実行するための具体的な情報もご紹介する。
 残念なお知らせだが、投資についてアドバイスしてくれる人々を信じてはいけない。
 あなたが私のことを信じられるとすれば、それは私があなたに売ろうとしている唯一の商品、つまりこの本をあなたは既に購入済みだからである。

 さりとて注記は入れておかねばならない。「あなた様固有の状況に合わせたアドバイスを提供するものではありません」「特定の投資、もしくは投資商品をお勧めするものではありません」「ご自身の投資決定によるいかなる結果についても、当方は責任を負いかねます」。

 思うような結果が出なかったとしたら――中には失敗例も出てくるだろう――それはあなたの責任である。結果が良ければ――成功例もありますように――むろん、あなた自身のお手柄だ。

 おいおい説明するが、悪い結果になったとしても、その投資決定自体は良かったというケースもある。
 あ、ちょっと苦しいか。

 事故と見るやメシの種をひねくり出す悪徳弁護士でも、はたまた後講釈を垂れて勝ち馬に乗るジャーナリストや政治家といえども、さすがにこんな理屈をこねるのには尻ごみするかもしれない。
 だから私は投資のアドバイスは控え、自分自身で投資決定を下す方法についてご案内するにとどめておこう。

 ほとんどの投資本は取引のやり方を教えてくれるが、私は取引を最小限に留めるよう提案する。
 ほとんどの投資本は市場心理を読めと教えるが、私がお勧めするのは、市場ではなく自分の頭で考えることだ。

 ほとんどの投資本が言うところの新しい投資先探しとは、値上がりしそうな株の物色である。
 むろん私とて、そんな銘柄を探すなと言うつもりは毛頭ないが、もう一つの問いにも同じくらいの比重を置いてほしいと思っている。

 この株や債券は、自分が既に持っているものと性質が異なるだろうか?

 本書で紹介する賢明なる投資の原則からは、ことほど左様に一般常識とは異なる結論が導き出されることになるだろう。