減税効果などから米国経済の好調が続いており、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げも進んでいる。政策金利の影響を受けやすい2年債などの米国債利回りは上昇傾向を続けており、短中期債利回りと長期債利回りが並びかけている。

 2年債利回りと10年債利回りの格差は現在、0.2%前後。いずれこれが逆転するとの思惑が強まっている。「米国債利回りカーブの逆イールド化」問題である。

 過去、米国債利回りカーブが逆イールド化すると、その後景気後退が生じるケースが多いことから、今回も「いつ逆イールド化するか」との関心が高まっている。

 一般的に10年債などは目先の政策金利よりも中立金利水準にさや寄せされやすい。FRBが示す中立金利水準はFOMC(米連邦公開市場委員会)で示される、政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の「長期見通し」に近いとされる。これが足元で2.85%程度であることから10年債利回りもその水準からはあまり乖離しないのが現状だ。

 他方、FRBは好調な米国経済がもたらすインフレへの警戒を強めており、3%もしくはそれ以上への政策金利引き上げの可能性を示唆している。今後2年以内に政策金利が3%を上回ることを織り込めば2年債利回りも3%程度に達する可能性が高く、その場合は逆イールドになりそうだ。

 ただ、これが米国の景気後退の予兆かどうかは疑わしい。FRBメンバーの多くも「長期見通しは2.85%程度だが、目先は減税等の効果で一時的に景気が上振れており、3%程度までの利上げが必要だ」と丁寧に説明している。

 利上げに耐え得る経済環境だからこそ、そこまでの利上げが遂行されるわけであり、その結果生じた逆イールド化が景気後退を示唆するとは考えにくい。

 これまでの逆イールド化は景気過熱によって強烈なインフレ圧力が生じたケースでよく見られた。FRBが利上げを急いだ局面で起きている。ただ、今回は賃金の伸びや財価格の上昇圧力も緩慢で、利上げを急がせるインセンティブは見られない。逆イールド化そのものを懸念材料と捉えるのは行き過ぎのようだ。

 ただ、10年債利回りが急低下し、2年債利回りを追い越す(下回る)ケースでの逆イールド化は市場の不安心理を煽りそうだ。

 主に株安などを背景に、安全資産である米国10年債に急激に資金が流入すれば、現時点でも容易に逆イールド化は生じ得る。株安は将来の景気への不安などから生じやすく、結果として「景気後退懸念と逆イールド化」が同時に起こる。米国中間選挙など大きなイベントに前後して注意が必要だ。

(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)