ネットの巨人、グーグルが今、電気自動車に熱を上げていることをご存知だろうか。非営利部門の「Google.org」がプラグインハイブリッド車(家庭用電源で充電可能なハイブリッド車)を含む電気自動車関連ベンチャーに日本円にして十数億円規模の資金を拠出。一躍、この分野の“タニマチ”となっているのだ。

 グーグルの関与は、むろん単なる慈善活動ではない。データセンターに膨大な電力を要する同社にとって、省電力技術の確保は重要な経営課題。太陽電池などに加えて、電力の効率利用を目指す電気自動車は当然ながら「全方位外交の主要テーマだ」(関係者)。

 今年6月には、有力シンクタンクのブルッキングス研究所と組んで、ワシントンで、「プラグイン電気自動車2008」と題した会議を開催。米ビッグスリーの首脳陣らを招待し、電気自動車普及に向けた政策のあり方を議論した。

  経営難のビッグスリーは、本音では電気自動車どころではない。せいぜいプラグインハイブリッドの開発を細々と続けているのが実情だ。「資金力豊富なグーグルへの期待は日増しに高まっている」とビッグスリー関係者は口を揃える。

 もう一つ、米国発の先進事例を紹介しよう。シリコンバレーに本拠を置くプロジェクト・ベター・プレイス(PBP)だ。同社のシャイ・アガシCEOは、企業向けソフト大手SAPの元幹部。それだけに描く事業モデルも大胆だ。

 電気自動車を携帯電話、充電設備を携帯電話網に見立てて、自らは充電設備の整備・維持に特化し、クルマは自動車メーカーから調達、携帯電話会社のように、利用者からのインフラ使用料収入で稼ぐという。このPBPとグーグルの共通点は、言わずもがな、クルマの世界の門外漢である点だ。すでに見てきたとおり、日本の電気自動車開発は自動車メーカー主導で進められているが、欧米では起業家が主役となっている。

 だが、侮ってはいけない。グーグルもさることながら、数多くの有力企業を輩出してきたベンチャーキャピタル(VC)が全面的バックアップを提供し始めているからだ。特にアマゾンやグーグルを育てた名門VC、クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズの動きは活発だ。フォードの元子会社で、現在ノルウェー企業の傘下にあるシンクのほか、創業まもない複数の電気自動車ベンチャーにも巨額の資金を投じている。

 むろん現在話題の企業群が“電気自動車のグーグル”になれる保証はない。ただ、ビッグスリーの昨今の体たらくだけに目をとらわれていると、日本の自動車産業は真の競争相手を見誤る可能性がある。

(ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)