いつか追いつかなければならない目標
私が18歳で中国へ渡ってからの9年間、孤軍奮闘する中で、常に意識してきた人物がいる。プロ野球選手で、米大リーグのシアトル・マリナーズで活躍するイチロー選手だ。
自分にどこまでも厳しく、自己管理を怠らず、明確に定めた目標を確実に達成してきたイチロー選手は、数え切れないほどのアメリカ人の対日観を変えたことだろう。私が活動するのは言論界であるが、「自らの奮闘で、中国人の対日観を変えたい」という信念を持って取り組んできた。
「自分もイチロー選手に続かないといけない。さもなければ、世界の人たちは日本のことを忘れてしまう。日本人が外の世界で尊敬されなくなってしまう。決してそんなことがあってはならない。絶対にそうはさせない――」
私はそう自分に言い聞かせ、奮い立たせてきた。イチロー選手は「雲の上の存在」としてではなく、いつか追いつきたい、追いつかなければならない目標として、私の心の中に常に意識させてもらっている。もう一度、今の自分の立場を自覚して、発信者としての役割を果たすべく、精進していきたい。
「個の力」で戦う同年代の同志たち
イチロー選手は「いつか追いつかなければならない目標」であるが、他にも私には「同志」として意識させてもらっている存在がいる。「同志」たちは、世界で闘っていくうえで、私を落ち着かせてくれる。欧米で奮闘する同世代の日本人スポーツ選手たちだ。前回コラムで強調した「個の力」を発揮し、世界を相手に勝負を挑んでいる。
一人目は一番意識している選手だ。同じ静岡県出身で、同い年の長谷部誠選手。ドイツ、ブンデスリーガのヴォルフスブルグで活躍している。著書『心を整える』も拝読した。自己管理を徹底するストイックなタイプで、問題意識の高さと好奇心の旺盛さにいつも感心させられている。
日本代表主将として、リーダーシップを以て取り組む姿は、日本人として、また同年代として誇らしく思う。2014年に開催されるブラジルワールドカップ最終予選でも、プレー面に加えて、チームの精神的まとめ役として活躍してほしい。静岡から世界へ――。ともに汗を流していきたいと思っている。
また、同じくドイツ、ブンデスリーガのドルトムントで、中心メンバーとしてリーグ二連覇に貢献した香川真司選手である。5月7日付のドイツの大衆紙ビルトでは、今季のベストイレブンに選ばれている。日本サッカー界の未来を背負っていく男だ。
私はサッカーに関して技術的、戦術的なことは素人だが、その素人の目で見ても、香川選手のプレーは、「切れ味の次元が違う」と思う。見ている人たちをハッとさせるプレーは、間違いなくドイツ人たちの対日観を変えているだろう。「日本にもこんな奴がいたんだ」と。次の移籍先も注目されるが、思いっきり暴れてほしい。