流行り廃りの激しいウェブの世界で、うまいマーケティングを仕掛けるには?たとえば、いまどきオウンドメディアって言われると… 書籍『マーケティングの仕事と年収のリアル』の著者・山口義宏さん(インサイトフォース代表取締役。@blogucci)が、マッキンゼー、Google、リクルートなど13職を経たIT批評家の尾原和啓(@kazobara)さんと、リクルート出身で数々の起業経験をもつ事業家のけんすうこと古川健介(@kensuu)さんという、その道のプロお二人を迎えてお送りする豪華鼎談。第1回では、ウェブマーケターが陥りがちな罠や成功するための方法について聞いていきます。

いまオウンドメディアと言われると、ヒィっ!となる

山口義宏さん(以下、山口) 今日、お二人に是非聞きたかったのは、ぶっちゃけ一緒に仕事していて、「イケてるマーケター」と「イケてないマーケター」の違いってどこですか、という点です。

尾原和啓さん(以下、尾原) なるほど~

けんすうさん(以下、けんすう) そもそも「マーケター」って何をする人なんですか?

山口 業務的なスコープで切ると、マーケティングの4P(製品、購買喚起、販売チャネル、価格)施策に関わっている人ですかね。「マーケター」という職種はあんまりないし、自分でそう名乗る人も少ないので、わかりづらいのですが。総務だろうと経理だろうと、誰かのために価値を提供する場合は全員マーケターマインドをもつべし、みたいな話を横に置いておくとすると。

どうしたら、けんすうさんみたいになれるんですか?<br />尾原和啓(おばら・かずひろ)さんプロフィル/1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。

尾原 リクルートは明確に「マーケティング局」というのがあるけど。

けんすう ありますね。CMO(最高マーケティング責任者)を置いている企業もあるし。

山口 会社によって慣習が違うので分かりづらいんですよね。たとえば、電機メーカーあたりでは、「~販売」という社名だった営業子会社を、おそらく採用などを意識してカッコよく「~マーケティング」と看板かけかえたりしているんですよね。一方で、ネスレのように全員マーケターのマインドを持つべし、という会社もある。マーケティングの話は、マインドセットの話と機能の話が混在し、会社によってマーケティングが担うとされている機能も異なります。

けんすう リクルートの「マーケティング」というのは、完全に「集客」です。役割分担が明確で、企業側を動かす「営業」に対して、その企業とマッチングするユーザーを連れてくるのが「マーケティング」。おそらく、多くのB to B to Cの会社も同じじゃないかな。

尾原 そうね。じゃあ、「イケてるマーケター」と「イケてないマーケター」というと?

けんすう 「イケてない」ほうで言えば、ルールが変わってるのに、半年とか1年前の知識で語られるとキツいですね。いま「オウンドメディア」って言われると、ヒィっ!てなるじゃないですか。

尾原 ヒィっ(笑)!

けんすう いまGoogleは記事をやたらと増やすメディアについて検索順位を下げる傾向にあるので、オウンドメディアをやると結構キツいってときに。昔なら、確かに効いてたんですよ。でも今、それ持ち出されると…

ネットのマーケティングはアービトラージだ

尾原 ネットの場合は、「商品を仕入れる」というより「ユーザーを仕入れる」んですよね。たとえばトヨタ自動車の求人に合うユーザーを連れてくるには、銀座の目抜き通りのように沢山の人が見にくるYahoo!JAPANみたいなサイトに出す方法もあれば、トヨタの文化に合いそうな趣味や住む地域といった属性をしぼって、Facebookで対象を限定化した広告を出す方法もある。

 ただし、ネットで面倒なのは、自分たちでルールをコントロールできない余地があることです。Googleの検索力だったりFacebookのアルゴリズムといった、出店させてもらう「他人の土地」の意思によって仕入れ値が変わるじゃないですか。だから、ネットの世界だとそういうことを含めてわかっている人が、マーケティングだろうとなんだろうと幅を利かせることになる。

山口 なるほど。

尾原 あとピンポイントですけど、プラットフォームの「歪み」を見つける人って結構優秀ですよね。○○というサイトの検索エンジンがこうなった瞬間にこういう広告出すと、めっちゃユーザーくるな、と気づくとか。歪みを突いて、一気にユーザーをとる。インターネットのマーケティングって、アービトラージ(裁定取引。同一価値の商品の一時的な価格差をつき、割安なほうを買うのと同時に割高なほうを売って、利益を獲得する取引手法)なんですよ。

けんすう アービトラージですね。

尾原 ほかの人が気づく前に一番オイシイ餌場にダーンと網まいてドカーンと集める。しかも、それで時価総額をバーンと上げて、売り抜けて終わり、みたいな(笑)。

けんすう あとは、自分の話で恐縮ですけど、たとえば自分のプロフィールを書いてください、これバズらせてください、と言ってできるかどうか。

尾原 今日まさに書いてたよね。

どうしたら、けんすうさんみたいになれるんですか?<br />けんすう(古川健介 ふるかわ・けんすけ)さんプロフィル/1981年生まれ。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、ハウツーサイト「nanapi」を運営する株式会社ロケットスタート(のちに株式会社nanapiへ社名変更)代表取締役に就任。

けんすう noteに固定でプロフィールを設定できるようになったので、これバズらせる人が今後増えてくるだろうから、その第一号をやろうと思って書いてみたんですけど。

 だいたいネットだと、人がやったことをマネしてもスベるんですよ。二番煎じぐらいまでは、面白いことも場合によってあるかもしれないけど。フレームワーク化したり前例を真似たら、まずコケるので、その時々の状況に応じて「このクリエイティブがいいよね」、というのが常に出せる人は優秀だと思います。

尾原 インターネットは、すべてをネタ化していくところがあって。昔のカッコいい言い方をすると「アテンション・エコノミー」ってやつですよね。結局のところ、人って浮気性で新しいものが常に欲しいから、これまでとちょっと違う新しいものを提供してあげることが大事になる。今けんすうが言ったような、新しいこと×新しい使い方という「新しさ」の掛け算ができるとバズらせやすいわけですよ。

バズらせるための反射神経を鍛える唯一の方法

山口 おふたりのお話を聞いて、マーケターとして厳しくなっていく人が見えた気がします。特に事業会社のマーケティングを外部からサポートする支援会社にありがちだと思うんですけど、けんすうさんが今日noteのプロフィールをこう変えて当たった、というのを見たら、3匹目のドジョウを狙って3000匹まで掘り起こすために、ものすごい営業力を使って、デリバリーも同じフレームワークを焼き直すということを繰り返しちゃうんですよね。その拡大再生産を担う要員になった瞬間に、人材価値は上がらなくなりますね。しかも、支援会社は拡大再生産の繰り返しだから売りやすいけど、ユーザーは飽き飽きとしてスルーしてしまい売り込んだ施策の成果も出ない悪循環。

けんすう そうですね。ただ、マーケティングの会社というより営業オペレーションの会社であれば、オペレーションを作れる点ではすごく価値があると思いますね。個人として、それを良しとするかはまた別でしょうけど。

尾原 インターネットの世界は、コスト効率のよいゲリラ戦法なので、反射神経を鍛えられる。だから、できる人は永遠にできるわけですよ。

どうしたら、けんすうさんみたいになれるんですか?<br />山口 義宏 (やまぐち・よしひろ)さんプロフィル/インサイトフォース代表取締役。東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にブランド・マーケティング領域支援に特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース設立。大手企業を中心にこれまで100社以上の戦略コンサルティングに従事している。著書に『デジタル時代の基礎知識『ブランディング』 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社)など。東京都生まれ。

山口 ただ、そもそもそういうゲームなんだ、と気づいていない人もいると思うんですけど、どうすれば気づけるようになるんでしょう。イケてない質問だけど。

尾原 どうやったら、けんすうさんみたいになれるんですか(笑)? ってことですね。

けんすう でも、やっぱりみんな、圧倒的に試行錯誤の量が足りてないと思いますね。バズらせる人って、やっぱり量をこなしています。1日100件、1年間ずっとツイート投稿してみたけどわかりません、だったらいいですけど、マーケティングの仕事をしているのにTwitterで全然フォローされていなくて、しかも1日2~3件しか投稿していない、となると、経験の量が全然つめないのかなと。

山口 努力だけで30倍の差があるわけですもんね。

けんすう そうですね。僕も一時twitterをやめていたんですが、2017年頃から再開して。最初の3ヵ月ぐらい全然バズんなかったんですよ。シェア1、とか。でも、めげずにずーっとやりながら、バズるなっていう勘所をチューニングしていったので。

山口 それって、定性的な感覚でつかんでいくんですか。あるいは定量的な反応をみて学習するんですか。

けんすう たぶん論理的に解釈するのって、けっこう無駄です。尾原さんがさっき言ってた「反射神経」って、言い得て妙なんです。ボールがこう来たらバットをこう振ろう、じゃなくて、たくさんボールが来る中で「これなら当たる」と感覚をつかむ感じです。バッターの横で見ていて、「どの角度で振ればいいですか」「45度ですね」って言ってる人は、やっぱりなかなか当たらない、っていうイメージです。バッターボックスに立ってバットをふらないと、いざ本番で反射的に動けない。

尾原 複雑な波をつかまえながら、一番オイシイ漁場を探す感じなので、変数が多すぎて普通にマニュアル化できないんですよね。

普通の人ははあちゅうさんをマネすべし!

けんすう はあちゅうって、一番多いときで30個くらいブログをやってたらしいんですよ。それだけやったら感覚が身につきます。もちろん能力が高くて一発で当てられる人もいるんですけど、普通の人ははあちゅうのほうがマネしやすい。ブログで一発当てれられるかどうかは物量次第、っていうことです。

尾原 努力の天才ですからね、はあちゅうさんは。

山口 つまり、四の五の言ってねえで、打席に立ってバットを振れ、って話なんですね。

けんすう 打席に立つ以外にポイントはないので、打席に立てばいいんじゃないですか。って僕よく言うんですけど、ほとんどの人は立たない。だから、打席に立ちさえすればチョロいと思います。

尾原 僕も海外生活が長くなってきたから、日本での存在感を高めるために毎週1回は自分の記事がNewspicksでフィーチャーされるようにしようと今年は決めて。今日、50本目を達成したんですよ。

山口 すごいですね。

尾原 これも結局同じことだと思うんですけど。今のピッカーの方々が、どういう記事の種類でどういうタイトルを入れると、ついピックしてコメントしたくなるか、を踏まえて書くっていう。

山口 お二人が言いたいのは、とにかくシンプルに、いい漁場探すなら毎日海に船を出せ、っていう話ですね。

尾原 大事なことは、今どこがオイシイんだろう、ってことを常に考えながら試行錯誤を続けることですね。

けんすう それでも、打率は超低いと思いますね。当たるのはたまたまです。(第2回につづく)