日本を変えなければ「働き方」は変わらない?

「働き方改革」は、失敗しようがないほど“小さなこと”から始めるのが正解小室淑恵(こむろ・よしえ)
株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長
2006年に起業し、働き方改革コンサルティングを約1000社に提供してきたほか、年間約200回の講演を依頼されている。クライアント企業では、業績を向上させつつ、労働時間の削減や有給休暇取得率、社員満足度、企業内出生率の改善といった成果が出ており、長時間労働体質の企業を生産性の高い組織に改革する手腕に定評がある。主催するワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座は全国で約1600人の卒業生を育成し、認定上級コンサルタントが各地域で中小企業の支援も行っている。政府の産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会委員、文部科学省中央教育審議会委員、厚生労働省社会保障審議会年金部会委員、内閣府仕事と生活の調和に関する専門調査会委員などを歴任。著書に『働き方改革』『労働時間革命』(ともに毎日新聞出版)、『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

 実際に、「小さなこと」で「大きな効果」を上げたケースはたくさんあります。ある監査法人をコンサルティングしたときのエピソードをご紹介しましょう。

 そのチームは非常に忙しく、特に企業の決算期直後に仕事が集中。毎年4~6月は殺人的な忙しさで、それをなんとか解決したいと考えていました。

 しかし、当初、チームのメンバーたちは「日本の仕組みを変えなければ、この状況は変わらない」と主張していました。日本企業の決算期が3月に集中している状況を変えなければ、自分たちの「働き方」を変えることはできないというわけです。

 もちろん、それも一理ありますが、あまりにも「大きなこと」すぎて手の打ちようがありません。ですから、私たちは「たしかにそうかもしれませんね。でも試しに、できることからやってみましょうよ」と呼びかけました。皆さんは「できることなんてあるのかな?」と懐疑的でしたが、「何かいい方法はないかな?」と考え始めました。そして、ある「小さなこと」で劇的な変化を生み出すことになったのです。

 その「小さなこと」に気づいたのは、会議の場でした。
 ひとりのメンバーがあるプロジェクトで、3週間ほど時間をムダにしたケースを分析していたときのことです。当時、そのメンバーはある企業の監査業務を進めていたのですが、業務開始から1週間ほどたったタイミングで、「いま自分が進めている監査方針は正しいのだろうか?」と不安になってきたのだそうです。

 そこで、監査のエキスパートである上位職(パートナー)に相談しようとしました。しかし、その監査法人では、現場のメンバーがパートナーに相談するときには、必ずメールでアポイントをとって、フェイス・トゥ・フェイスで行うという“暗黙のルール”がありました。

 そのため、パートナーと相談できたのはアクションを起こしてから2週間後。しかも、その場で「この監査方針ではダメ」と指摘され、ゼロから監査をやり直すことになったといいます。つまり、組織内のコミュニケーションのハードルが高いことで3週間分の仕事が振り出しに戻るという、大きなムダを生み出していたわけです。