設備投資についても、IMFは同様の弊害を指摘する。IMFの分析では、追加利益率が高まるに連れて、企業による設備投資の伸び率は、低下する傾向にあるという。独占的な立場を手にした企業は、生産能力を増強するまでもなく、自社に有利な価格の設定によって、収益の増加を実現しやすくなるからだ。

 賃金の伸び悩みや、格差への影響も論点である。米国では、2018年8月にカンザスシティ連銀がワイオミング州のジャクソン・ホールで開いた恒例の国際経済シンポジウムが、世界的な寡占・独占の進展による市場構造の変化をテーマに据えている。そこでは、先日亡くなったアラン・クルーガー元大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が、市場における企業の独占的な力の強まりが、賃金の伸び悩みをもたらす可能性を論じていた。

反トラスト法の修正で
新たな寡占・独占企業を阻止

 民主党の予備選挙における巨大企業批判の高まりは、寡占・独占が進む米国の現状と、その弊害に対する問題意識がある。だからこそ、民主党の候補たちによる提案は、ハイテクなどの個別産業に限定された内容にどどまらない。

 立候補者が20人近くに達し、群雄割拠の様相を呈す民主党の候補者のなかでも、特にこの問題で注目されるのは、エイミー・クロブシャー上院議員である。上院で反トラスト法を担当する小委員会の民主党筆頭議員を務めるクロブシャー議員は、民主党における巨大企業対策の牽引役を担ってきた。「米国には深刻な独占の問題がある」と述べるなど、今回の大統領選挙でも寡占・独占対策を公約の主軸に据えており、この問題に特化した書籍を出版する予定だという。

 クロブシャー議員は、反トラスト法を修正し、企業合併の許認可に関する基準を厳格化するとともに、消費者に与える影響だけでなく、原材料の購入先や雇用者に与える影響についても、しっかりと検討することを定めるよう提案している。

 背景には、これまでの合併審査には、消費者に与える影響が重視される傾向があり、価格の上昇につながらない限りにおいては、合併が認められやすかったという事情がある。こうした傾向が続く限り、需要面での独占的な立場を利用して、巨大な企業が購入先や雇用者に圧力をかけたとしても、フェイスブックやグーグルのように、消費者に無料のサービスを提供している場合には、反トラスト法の対象になり難い。