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冨山和彦 特別講演録

経営で本当に大切なのは「合理」と「情理」

冨山和彦 特別講演録「経営者の条件」(後編)

冨山和彦 [経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO]
【後編】 2008年10月21日
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 よく「選択と集中」と言いますが、これは日本語的にちょっと卑怯な表現です。同義語反復で、2つ並べる意味がない。本来は「捨象と集中」です。捨てて残したものに集中するということです。

 やはり「捨てる」という言葉が嫌なので避けるのでしょう。でも私は、多くの場合捨てることにこそ本質があるような気がしています。戦略というのはそういうもので、どうやったって日陰と日なたができるんです。

 経営者が、本当に経営者らしく存在することを求められる状況というのは、「捨てざるをえない」状況です。はっきりいって、問題なく業績が伸びているときには、極論すれば経営者などだれでも務まります。みこしに乗っていればいいんですから、昔の自民党総裁と一緒です。そういう状況では、「殿、ご決断を」ということはないはずです。

 でも、危機的な状況下の意思決定では、必ずだれかの恨みを買います。例えば1000人の会社をタイタニックに例えて、1000人のままでは北大西洋を越えてニューヨークまでたどり着けない、300人降りれば何とか行けそうだという状況です。全員が死ぬよりはましということで、300人降りてもらうことにしました。だれがどう考えても降ろしたほうがいい社員というのは、10人、20人ぐらいまでなら、だれの意見も一致します。

 ところが、300番目と301番目の人にどういう違いがあるでしょうか。300番目と600番目もそんなに大差ないはずです。しかしながら、だれかが運悪く300番目になり、だれかが運良く301番目になるんです。この1人は、経営から見れば、頭数でいえば1000分の1です。降りてもらう300人は1000分の300、10分の3です。10分の3の犠牲のもとに10分の7を救うんだから、これは合理的なんです。その瞬間における決断としては全く間違っていない。

経営が直面する苦しい決断は
理屈や合理だけでは超えられない

 この段階にきて、そもそもそういう状況をつくらなかったのが正しい経営だと言っても仕方がない。時々評論家で「そもそも論」を言う人がいますが、それは実践的ではないんです。

 切られる当人にしてみれば、人生は1回こっきりです。1度きりの、かけがえのない人生を皆生きているんです。つまり、1分の1。経営の立場から見た1000分の1と本人の1分の1、これはどうやっても非対称的で、立場が違うのだから絶対的に超えられない。

 例えば、従業員のお子さんが大学進学を迎えているが、家の財政状況は厳しい。会社がつぶれてしまったら、進学もできなくなってしまう。ここで決算を無理にいじれば倒産しなくて済むとしたら、皆さんはどうしますか? 有価証券虚偽記載罪に問われても、何とか自分の子供の夢をかなえてあげるのを選ぶのか。あるいは社会規範だ、企業の社会的責任だときれいごとを言って、正直に決算をやって会社をつぶして、自分の子供の夢をあきらめてもらうのが正しいのか。これは何が正しいかわからないです。

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冨山和彦 [経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO]

ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役社長を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、IGPIを設立、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わり、現在に至る。オムロンやぴあの社外取締役、朝日新聞社社外監査役、中日本高速道路社外監査役のほか、多くの政府関連委員を務める。1960年生まれ、東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。


冨山和彦 特別講演録

産業再生機構で41社の企業再生を成し遂げた、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏の特別講演録を再構成し、2回にわたり収録。経営者の条件とは? 経営難に陥る企業の共通項は何か――。

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