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四国の名門、丸住製紙は民事再生申請から3カ月たっても支援企業が決まらず、破産リスクが高まっている。実は経営破綻の1年3カ月前、コンサルティング大手の経営共創基盤(IGPI)が「事業再生計画」を作成していた。ダイヤモンド編集部が入手したその内部資料などを基に、3回にわたり、丸住製紙の破綻の全貌を明らかにしていく。第3回の本稿では、「117億円の巨額赤字を3年で黒字転換」というV字回復を目指した事業再生計画は、なぜ失敗に終わったのかを探る。再生計画の核心である「損益シミュレーション」「10大テコ入れ策の効果額」「事業別の売上計画」という重要な計画値と、実績値を突き合わせ、その“ズレ”を徹底検証する。100億円超の特別損失という時限爆弾、創業家社長の統率力不足、オーナー企業に潜む実行力の空洞――数字が語る再生計画と現実の断絶をあぶり出す。(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)

丸住再建シナリオはなぜ頓挫したか
“黒字化ロードマップ”と実績値のズレを追う

 四国の名門、丸住製紙(愛媛県四国中央市)は2月末、民事再生法の適用を申請した。そのわずか1年3カ月前の2023年11月、同社はコンサルティング大手、経営共創基盤(IGPI)とともに、金融機関に返済猶予と追加融資を求める社外秘の「事業再生計画」を策定している。再生計画は「117億円の巨額赤字を3年で黒字転換させる」ことを掲げた野心的なロードマップだった。

 再生計画には、年度別の損益シミュレーションに加え、費用削減や値上げ、新規拡販など「10大施策」の効果の実額、そして事業別の成長シナリオが盛り込まれていた。だが、計画を提示された取引金融機関の担当者は「こんなばら色の計画は現実味が乏しい」と難色を示した。

図表:丸住製紙の損益の実績と計画の推移(サンプル)

 その危惧は的中した。IGPIが想定した黒字化計画は初年度からつまずき、再生計画は画餅に帰した。民事再生申請から3カ月が過ぎてもスポンサーは現れず、破産や特別清算へ移行するリスクが日に日に高まっている。

 本稿では、事業再生計画の中核である①損益シミュレーション②10大テコ入れ策の効果額③事業別売上計画――内部資料に記された三つの重要な計画値を倒産までの実績値と突き合わせ、崩壊に至ったメカニズムをあぶり出す。

図表:丸住製紙の損益改善10大テコ入れ策と効果額(サンプル)

 ただ、追加融資が焦げ付いた大手銀行幹部は「IGPIは、やるべき仕事をした。破綻を招いたのは丸住の実行力の問題だ」と語った。

 実際、丸住製紙は再生計画の途中でIGPIとの契約を打ち切り、KPMGコンサルティングへ乗り換えた。「経営の問題点を真面目に突き過ぎて疎まれたのだろう」と商社筋は見る(『【独自】名門・丸住製紙の破綻前にコンサル大手が策定した再生計画を入手!内部資料が明かす業績悪化の「真因24項目」の全容』参照)。

 三つの重要な計画値と実績値との差異が浮き彫りにするのが、101億円の特別損失という想定外の時限爆弾の炸裂、創業家出身の星川知之社長(20年2月就任)のリーダーシップ不足、そしてオーナー企業にありがちな現場の自律性欠如だ。

図表:丸住製紙の事業別売上高の実績と計画(サンプル)

 数字はどこで狂い、なぜ修正できなかったのか。次ページで“黒字化ロードマップ”と現実のギャップを具体的に読み解いていく。経営不振に陥った企業と支援に入ったコンサルの「同床異夢」はなぜ起きるのか。実際に破綻に至った企業を基にした、極めて貴重なケーススタディーともいえる。