金融不況で株価が低下したことにより、「今こそ株の買い時!」というメッセージを目にする機会が少なくない。確かに以前に比べると株価は下がっているが、この下落局面で痛手を被った人も少なくないだろうから、ここらで今一度個人投資家はどういう投資戦略を立てるべきかを考えておきたいところである。
そこで、今回はアセットアロケーションの授業で登場した個人投資家の投資戦略のお話を紹介しつつ、「貯蓄から投資へ」の安易な提唱の危うさを指摘したい。
実は、私個人としては2年前に出版した本の帯タイトルを「『貯蓄から投資へ』の大合唱に踊らされるな!」としていた。日経平均がまだ17000円もあった頃だが(たった2年前である!)、当時からこのスローガンは分かりやすくて危険だと思っていた。
もっとも、投資そのものの有効性を否定する気はさらさらなく、リスクとリターンを事前に理解した上で投資を行なうのは、金融資産の形成という意味で非常に重要だと思っている。しかし、安易に「さあ投資だー!」と煽るのはよくない。なぜなら投資というのはそう簡単ではなく、個人個人で取るべきリスクが大いに違うからである。
「人的資産」という概念
機関投資家と個人投資家の違いは何であろうか? 情報量? 経験? 資金力? いくつかの要素がパッと思いつき、それらは確かに異なるのであろうが、根本的な特性として異なるのは、個人投資家が「人的資産」という目に見えない資産を持っていることである。これがアセットアロケーションの授業で登場した個人投資家の資産運用を考えるときの重要なポイントである。
人的資産の簡単なイメージは、残りの人生の労働から得られる所得の合計である。大卒男子の生涯賃金は約3億円と言われる。つまり、23歳の新入社員は貯蓄(金融資産)がゼロでも、3億円の人的資産を有することとなる。
一方、ちょうど定年退職で老後を迎えようとしている60歳の人を考えると、金融資産はある程度貯まっている一方、その後の人生で稼ぐ金額はさほど高くないだろうから人的資産は非常に小さくなっているはずだ。
年齢とともに
「ハイリスク資産」を減らすべき
人的資産の概念から言えることは、若い人は金融資産の運用において多少リスクの高い投資をして痛手を被ったところで、その後の人生において一生懸命働いて取り戻すことが可能である。他方、高齢になるほど、金融資産の運用の失敗を人的資産で取り戻すことは難しくなる。
したがって、個人の資産運用のアロケーションにおいては、年齢とともにハイリスク資産の割合を減らしてローリスク資産を増やすべきということになる。つまり、若い時は株式投資やFXのような高いリスクの投資ができるが、年齢がいくほど債券や預金の割合を高めるべきということである。