異業種には「魅力的な会社」に映ることも

 ここから、今後の戦略について検討を始めます。製造部門の稼働率には、まだ余裕があります。営業によって新規顧客が獲得できるのであれば黒字化は可能ですが、できなければ部門の縮小もやむを得ないという判断となります。

 しかし、自力での営業は難しく、主要顧客も成長産業ばかりではないためいずれ取引量は縮小していく可能性が高い。そう考えると、資本力のある第三者に売却するのがベストと判断しました。

 この会社にもっとも興味を示すのは、同業の可能性が高いと思われました。設備の共有・集約、仕入れの共通化、顧客と人材の共有化によるメリットがわかりやすいからです。しかし、設備産業が同業へ売却されるケースでは、拠点の統廃合が生じやすく、結果として人員が整理される可能性が高まります。

 社長は顧客と従業員の維持に、並々ならぬ思いがあります。それが難しい場合には、他の候補先を探さなければなりません。高級印刷に対して一定量の需要がある企業が、自社の印刷部門として機能子会社化する可能性はあります。同業他社と異業種による機能子会社化という両面で買い手企業を見つけることになりました。

 買い手探しは難航しました。同業者は買収に興味を示しても、拠点や雇用の維持がネックとなりました。異業種も、衰退産業の印刷業を内製化する理由が見つからないようです。粘り強くアプローチを続けると、不動産、自動車、宝飾品など高級商品の小売会社を複数傘下に持つコングロマリットが興味を示しました。

 そのグループは売上1000億円、ちょうど印刷コストの削減が経営課題の一つになっていました。グループ内の発注だけで黒字化でき、自社の印刷物の品質向上も実現できることから、M&Aが成立しました。もちろん、社長の譲れぬ思いである従業員や顧客との関係維持も将来にわたって約束されました。

 このように、将来性がないと思っても、とくに異業種には一緒に事業を伸ばせる魅力的な会社に映るケースもあります。誠実かつ長く事業を継続している会社には、継続できるだけの強み、見るべき価値が必ずあるはずです。その価値を見つけ出し、しっかりと表現することの重要性を改めて認識した事例です。

※次回は、「独自性がない」から会社をたたむしかないと思っていたが、弱みを強みとして評価され、高く売れたケースをお伝えします(7月22日公開予定)。