どうやらわれわれの寿命は思った以上に「自己責任」らしい。なにしろ「健康状態は最悪」と自己評価している人は「最高」と自賛する人の3.3倍、死亡リスクが上昇するのだから。

 先日、スイスの研究グループから、一つの追跡調査の結果が報告された。中身はいたってシンプルで、登録時に自分の健康状態について「最悪」「悪い」「普通」「良い」「最高」、そして「わからない」の6段階で自己評価。そのほか、教育程度、喫煙歴、糖尿病や高血圧などの病歴、未婚か既婚かあるいは離婚歴があるかなどライフスタイルに関わる質問に回答した後、延々30年間の長きにわたり追跡したもの。

 登録時の8539人から調査が終了した2008年まで無事に「サバイバル」したのは5019人(追跡不可能は除く)。死亡者が残した回答から、自分の健康状態に悲観的なほど死亡リスクが上昇し、「最高」の1に対して「最悪」が3.3倍、「悪い」が1.9倍、「普通」は1.6倍という結果だった。興味深いことに「わからない」という無関心な態度は健康に悪いようで、なんと2.4倍の死亡リスクだったことも判明している。そんな自己評価よりよほど死亡リスクを上げそうなたばこが、非喫煙者の1に対してヘビースモーカーの1.8倍なのだから、3.3倍という数値には何やら深い意味がありそうだ。

 研究者は、登録時に自分の健康状態に満足していた人は、持病や既往歴がない時点ですでに他のグループより有利であること、何より「最高とする前向きな感覚」が死亡リスクを下げた要因だろうとしている。人生のある時点で充足していれば、誰しもそれを維持しようと考える。陳腐な自己啓発セミナーではないが「前向きな人々は、より健康で幸福な人生を歩む能力に長けているのだ」。

 その意味で「わからない」という回答は一番危険だ。回答者の平均年齢は「最高」グループと同じ40歳前後だが、喫煙率や糖尿病、心疾患などの罹患率は高い。健康なライフスタイルへの関心の低さが何を意味するのか、考えてみるのもいいかもしれない。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド