AIの能力向上に必須の高性能半導体。その鍵を握るのは他でもない「人」である。日本で最先端の半導体の開発を進めるマイクロンは、半導体市場のさらなる拡大を見据え半導体人材の育成に注力している。その中心となるのが同社と日米11大学が連携する人材育成プログラム、「UPWARDS for the Future」だ。
半導体人材の不足がAIの進化を止める?
世界の半導体市場は2030年には1兆ドル規模に達すると予測されている。市場拡大をけん引しているのがAIの存在だ。
AIの“頭の良さ”は、自らデータを収集し、データを基に「生成」する能力に依存している。そこで注目されているのが、同時に大量の計算を行う能力も持つGPU(画像処理装置)をはじめとするAI半導体だが、実はそれ単体では“頭の良さ”を発揮することができない。大量のデータに高速でアクセスし保存する高性能な半導体メモリが、AIの性能を左右する鍵となるのだ。
その半導体メモリの分野で世界のリーディングカンパニーとして存在感を高めているのがマイクロンテクノロジー(以下、マイクロン)だ。22年には世界最先端の1β(ワンベータ)世代のDRAMメモリの量産を広島の生産拠点で開始した。この生産拠点には、先端半導体の製造基盤整備を重要視する政府が、5G促進法およびNEDO法を改正して最大約465億円を助成すると発表した。
さらにマイクロンは25年、EUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外線)技術を広島工場に導入し、高度なパターニング技術を活用した1γ(ワンガンマ)世代の次世代DRAMの生産を開始する。このプロジェクトに対し政府は最大1920億円を助成することを発表した。マイクロンは、日本の半導体・デジタル産業戦略の一翼を担う重要な存在となっている。
1兆ドル市場をリードするために急務となるのが半導体人材の育成だ。マイクロンメモリ ジャパンのジョシュア・リー代表取締役は、「半導体の製造プロセスには広範な科学の知識が必要になるため、工学の知識を持つ人材だけでなく、材料工学、物理、機械工学といった分野に知識を持つ人材を採用しなければなりません」と人材獲得に意欲を示す。
ところが幅広い分野にまたがる半導体人材の確保は楽観できる状況ではない。優秀な人材は引く手あまたで、業界の垣根を越えた争奪戦が起きている。このままではAIの進化が止まってしまう。そこでマイクロンは、半導体人材の育成という喫緊の課題の解決に乗り出した。
次ページからは、同社が5年間で6000万ドルを投じる「UPWARDS for the Future(半導体の未来に向けた人材育成と研究開発のための日米大学パートナーシップ)」(以下、UPWARDSプログラム)の挑戦的な取り組みについて詳しく紹介する。