日本には、米中の間で果たすべき役割がある 三菱ケミカルホールディングス取締役会長・経済同友会前代表幹事 小林喜光Photo by Hideyuki Watanabe

日本経済は長期の停滞から抜け出せていない。もう一度、成長軌道に戻るため、どんな哲学を持って改革に望むべきなのか、経済同友会前代表幹事の小林喜光氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

――米中貿易摩擦などで未来が見通しにくくなっています。日系企業が生き抜くために何が大事ですか。

 米国は1960~90年に製造業のシェアを日本に取られてもがいていました。ところが90年代からインターネットが普及して、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などが新しいものを作ってきた。一方、日本は戦後復興でGDPが成長し、毎年昇給するのが当然という状態が90年ぐらいまで続きました。しかし、それから最近30年、完全にGDPが伸びず平らになった。米国はまだグイグイ伸びているのに。

 停滞の30年間に中国という眠れる獅子が起き上がって、今や基礎研究力からネットの世界まで含めて米中が世界をリードするようになっています。人工知能(AI)やバッテリーといったテクノロジーの論文で中国がトップで米国が2位、日本はだいたい5位ぐらいという状況です。ヨーロッパでさえ日本同様、停滞の中にあるというのが現状認識です。

 米国は常にトップでいなきゃいけない。やっぱり資本主義、自由主義社会の旗手でありリーダーだという自負があります。でも気がついたらサイバーでも第5世代通信規格「5G」でも半導体でも中国に追いつかれていた。下手をすれば追い越されてしまった。

 米国の対中姿勢が強硬になったのは、トランプ大統領のパーソナリティーというより、国民全体のコンセンサスによるものです。中国を放っておくと大変なことになってしまうという危機感の表れでしょう。

 だから、関税率を高めるっていうのは表面的なツールの1つでしかなくて、本質的には自由主義社会と専制主義的な陣営との対立だと思います。

 イラン、北朝鮮、ロシアにしても、米国をはじめとした自由主義との間の大きなイデオロギーの対立が残っている。となると、そういう戦いはまだ何十年も、「ジオポリティクス」と同時に「ジオテクノロジー」のフィールドで続いていくと見るしかありません。

 日本は安全保障上、米国の傘の下にあります。そういう中で、中国やロシアに対してどう対応していくか。これは政治家だけじゃなく、経済人も考えなければなりません。