昇る日産自動車、沈むガリバーインターナショナル
そこに自動車業界共倒れの構図を見る

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自動車メーカーにとっては
「中古車市場さまさま」なのである

 自動車業界は、日本が世界に誇れる数少ない産業である。それが中古車市場によって「収益チャンス」を奪われているとするならば、確かに問題である。しかしそれは、生産者側の言い分である点に注意したい。ゲームソフトのときの裁判の例に倣い、購入者や利用者の立場で考えてみよう。

 車は非常に高価な商品である。毎年、買い換えるものではない。洋服であれば事前に試着して、サイズや色合いを確かめることができる。購入した後で気に入らなければ、返品を求める剛の人もいる。

 しかし、車は基本的に、買う前にその良し悪しを確かめるのが難しい。ディーラーの「シグナリング」を信じるしかない。しかも、いったん買ってしまえば、おいそれとは返品がきかないシロモノだ。そこで、「車の返品」の代わりとして存在するのが、中古車市場であるといえる。

 次のような例を想定してみる。今年購入した新車を、数年後、中古車ディーラーに「公正価値fair value」で下取りしてもらうことにする。公正価値だなんて、聞き慣れない用語だ。要するに「時価」のことである(公正価値測定及びその開示に関する会計基準第3項)。

 当然のことながら、中古車ディーラーに下取りしてもらった公正価値が全額、次の新車購入に充当される保証はない。格安の中古車があれば、そちらのほうに使われる可能性もある。

 常に新車がいい、という人もいる。中古車市場には欲しい車種がないので、新車を何カ月も待つほうがいい、と考える人もいる。要は、価格や好みなどに見合った商品であれば、それを買う、ということである。

 子どもがゲームソフトを購入するときは、大人が車を買うときよりも、もっと合理的な発想をしているようだ。「このゲームソフトを買ったら、中古ソフトとしていくらで売れるだろう」と考えている。小学生といえども、将来の売り値(公正価値)を考えて、いまの買い値(取得原価)が妥当かどうかを頭の中で計算しているのである。

 これを車の購入に応用するならば、実質的な新車価格というのは、取得原価から公正価値を差し引いた金額(評価差額)に等しいことになる。つまり、新車価格(取得原価)というのは、中古車の公正価値の分だけ「下駄を履かせてもらっている」ことになる。

 中古車市場や下取り価格制度などがない場合、自動車メーカーは「下駄の高さ」に相応した収益を削られる。自動車メーカーや下請け企業からすれば、実は「中古車市場さまさま」なのである。

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高田直芳 [公認会計士]

1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月〜13年10月まで公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行なう。

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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略

大不況により、減収減益や倒産に直面する企業が急増しています。この連載では、あらゆる業界の上場企業を例にとり、どこにもないファイナンス分析の手法を用いて、苦境を克服するための経営戦略を徹底解説します。

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