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連載経済小説 東京崩壊
【第55回】 2012年7月23日
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高嶋哲夫 [作家]

電子議会システム

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【前回までのあらすじ】
ダラスと面会したその夜、森嶋はほとんど眠れなかった。朝、目覚めるとテレビのワイドショーはインターネットに流れた地震と富士山噴火の話題で持ちきりだった。森嶋は早めに役所に行った。始業時間の30分前だというのに、首都移転チームの半数以上の者が来ていた。すると、優美子が昨夜、理沙と会っていたのではないかと探りを入れてきた。単なる雑談にすぎないと言っても、優美子は執拗に聞いてくる。その時ドアが開いて、村津と遠山が入ってきた。何か新しい発表があるかと思ったが、村津はそのまま奥の部屋に入っていった。そのとき森嶋の携帯に理沙から電話がかかってきた。インターナショナル・リンクの会見が延期になったという。「あなたが日本の破綻を救ったというわけね」――。理沙の興奮した声が飛び込んでくる。
ほどなくして奥の部屋から村津が出てきた。同行を求められた森嶋は慌てて立ち上がり、村津の後を追った。停車していた黒塗りの車の中には殿塚が座っていた。3人を乗せた車は首都高速を北に向かって走って行った。
一方、能田総理もサイバーテロ対策に追われ、眠れない夜を過ごした。翌朝、秘書がやってきて京菱銀行の頭取が飛び込みで訪ねて来たと告げる。重要な案件なのだろう。総理が執務室に入ると4人の男が揃って入ってきた。都市銀行4行の頭取たちだ。横一列に並んだ頭取たちは全員が悲壮な表情をしている。預金の引き出しや取引停止の報告が来てこれ以上は対処できない、何とかしてくれと泣きついてきたのだ。総理には返す言葉が思い浮かばなかった。メガバンクの頭取たちは、それぞれ言いたいことを言って帰った。総理はぐったりと椅子に座りこんだ。日本の破綻を避けるためには、何か具体的な指示を出さなければいけない。しかし、総理はまったくと言っていいほど経済を理解できていなかった。

 

第3章

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 「なにか気付いたことはなかったかね」

 ぼんやりと町を見ていた殿塚が、車が高速道路を走り始めてからポツリと言った。

 「いつもより人通りが多い気がしました。特に、ほとんどのATMの前には行列が出来ていました」

 村津が答えた。やはり預金の引き出しが始まっているのだろう。

 「取り付け騒ぎまではいかないが、預金者が銀行に殺到していると言う話だ。1998年のロシアを思い出すよ。あのときも銀行に預金者が詰めかけた。日本経済がいかに脆弱であったか、今さらながら驚いている」

 殿塚が軽いため息をついた。

 「日本経済の脆弱性と言うより、日本国民の心理面の脆弱性も考えられませんか。たかがあの程度のサイバーテロでアタフタしています。もっと政府を信頼すべきです」

 「きみらしくないね。きみも政府に愛想をつかした口じゃないのか。だから退職して、独自で動いた。いや、それは前の政府だったね」

 殿塚は声を上げて笑った。前の政府とは自分たちの政府だ。しかし、殿塚の病状を知る者にとってはその笑い声は重く心に響いた。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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