第3章

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 さらに、と鈴木頭取は続けた。

「ヘッジファンドによる日本国債の空売りが激しくなっています。安泰といわれていた日本国債にも不安要素が広がり、個人所有者の中には手放す者も相当数いるようです。このままでは我が行の所有している日本国債も非常に危ない状態です。どういう形でもけっこうですから、政府保証をいただけませんか」

 他行の頭取たちも総理にすがるような視線を向けている。その裏には、銀行は政府の指示で日本国債の大量購入を行ったという意識があるのだろう。

「その上、株価も急激に下落しています。我が行、いや日本の全ての銀行の資産内容は一夜にして危険水域です。このままの状況が続くと、再度、政府基金の導入ということにもなりかねません」

「日本経済に対する見方が非常に厳しくなっている状況です。日本国内から見れば、まだまだ余裕はあるのですが、問題は海外の目です。海外の投資家や企業は日本経済を単に表面的な数字でしか判断しません」

「その通りです。債務総額が収入の1・5倍ある。GDPがここ数年、連続して下がっている。政府の明確な経済対策が見えない、などです。おまけに、昨日の世界に流された地震、火山噴火予知情報騒ぎです。これは痛かった。銀行には大丈夫かとの問い合わせが絶えません。最後のとどめのように株価の軒並みダウンと円安です。さらに日本国債の信用度ランクの低下が懸念されています」

 頭取たちが勝手なことを話し始めた。

「政府に求めているのは何なのです」

 総理の声に頭取たちは顔を見合わせている。

 結局、頭取たちとの面会は予定の10分より20分以上伸びてしまった。

 総理との会談の間も頭取たちはしきりにポケットを気にしていた。携帯電話への着信が絶えなかったのだろう。