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「有識者の評価による『よい会社』ランキング」の
無意味

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【 第12回】 2012年8月9日
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 一口に「よい会社」といっても、いろいろな切り口がある。基準を一つに絞り込むことはできない。誰にとっての「よい会社」なのかで話はずいぶん変わってくるからだ。投資家にとっては、株価が高いとか配当が多いのが「よい会社」だろう。当然ですけど。高株価、高配当の会社が従業員や地域社会にとって「よい会社」かというと、必ずしもそうではない。当たり前ですけど。

経営は「矛盾の超克」

 経営者視点に立てば、話はわりと単純になる。ここでもすでに書いたように、経営の目標は長期利益にある。長期にわたってきちんと利益を出しているのが「よい会社」というわけだ。長期にわたってしっかり儲けていれば、配当もできるし株価も上がる。投資家が喜ぶ。雇用もつくって守れる。従業員がハッピー。で、税金も払える(納税はいちばんの基本かつ最大のCSR)。しかも、競争の中で長期利益が出ているということは、顧客も満足しているという証拠だ。

 経営者が長期利益を基準に考えたり判断したり行動しれば、すべてのステイクホルダー(投資家、従業員、顧客、社会)に同時に貢献しやすくなる(必ず、というわけではないが、少なくとも貢献する確率は高まる)。

 これも話したことだが、「会社は誰のものか」という問題の設定は筋が悪い。悪すぎる。この問いは異なるステイクホルダーの利益の間に何らかのトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)の関係があることを前提としている。トレードオフがあれば優先順位をはっきりさせるしかない。株主のものか、従業員のものか。どっちが優先するのか、という話になる。

 もちろんステイクホルダーの利得の間にはちょっとしたトレードオフがある。しかし、それはあくまでも表面的で短期的なトレードオフにすぎない。「企業価値を維持するため、従業員はリストラします」という経営者がいる。これでは経営として底が浅い(それでもどうしてもリストラしなければならない局面があること否定しないが)。表面上のトレードオフを乗り越えて、なるべく多くのステイクホルダーとWin-Winの関係をつくる。経営の本領は「矛盾の超克」にある。

 僕が所属している一橋大学大学院ICS(国際企業戦略研究科)は「ポーター賞」を主催している。「優れた戦略によって業界標準以上の業績を長期にわたって維持している会社(ないしは事業)」を表彰する賞だ。評価の主軸は「優れた戦略によって」というところにある。これは相当に綜合的で定性的な基準なので審査のプロセスは手が込んでいるのだが、定量的な審査基準として最重視しているのは「投下資本利益率(ROIC)が業界の平均(ないしは中央値)を何パーセントポイント上回っているか」だ(もちろん利益は長期のそれでなければ意味がないので、過去5年間のROICの推移をみている)。

 投下資本利益率とか、もっとシンプルに営業利益率でもいいのだが、この種の「よい会社」の物差しを非反応的尺度(non-reactive measure)という。これに対して、意識調査(サーベイ)のように、回答者の反応なり評価を集計してはじき出すのが反応的尺度(reactive measure)だ。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


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