JR東日本が東京駅の大改造を進めている。

 10月に丸の内駅舎のドーム屋根が戦前の姿に蘇り、同時に併設する東京ステーションホテルが56室から150室へと3倍に拡大し、シングル部屋料金が1万1600円から3万0030円へ“格上げ”する形でリニューアルオープンする。

 JR東日本は、こうした東京駅の大改造に総額2000億円以上を投じている。その狙いと内情を追ってみた。

 まず、丸の内駅舎。

 この建造物は、明治建築界の重鎮・辰野金吾により設計されたものだが、戦災で3階のドーム屋根を焼失した。それを500億円かけて、67年ぶりに創建当時の姿に戻すものだ。

 JR東日本社内では、この復元工事を巡りさまざまな議論が交わされた。何せ、東京駅直結という抜群の立地だ。高層化してオフィスビルにすれば、相 当の収益貢献が見込める。それでも低層3階建ての姿に復活させたのは、重要文化財である「東京駅の顔」としてふさわしい姿を重視したためである。

 もちろん、単に公共性を重視しただけではない。実利を得られる制度の後押しがあってのことだった。

10月に丸の内駅舎復元工事が完成する(手前)。余った容積率は、八重洲口のグラントウキョウノースタワーとサウスタワー(奥)に移転された。

 東京駅周辺は「特例容積率適用区域制度」に認定され、丸の内駅舎で余った容積率を周辺ビルに売却移転できるようになった。この制度を活用して、三菱地所が開発した丸ビルや東京ビルへ容積率を売却し、丸の内駅舎の建て替え原資に充てたのだ。

 余った容積率は、JR東日本が東京駅の反対側・八重洲口で開発した高層ビルのグラントウキョウノースタワー、サウスタワーにも移転された。この2つのビルは、JR東日本の投資分だけで1290億円、共同事業者分も含めた総投資額は1400億円をかけたもので、それぞれ43階、42階という高層ビルが誕生した。JR東日本は、丸の内側で“顔”を整える代わりに八重洲側で“実”を取ったといえる。