展示さえも拒絶された「超問題作」

さまざまな憶測が飛び交いましたね。
あなたは、この作品がもともとなんであったのかに気がつきましたか?

みなさんのアウトプットにも出てきていましたが、じつはこれ……「男性用の小便器」なのです。そうは見えないと思う人は、写真を逆さにしてみてください。台に接している面は、もともと壁に接していた部分です。手前の大きい穴は、便器上部のパイプにつながる部分です。

しかし……よりによって便器を作品にするなんて、かなり突飛ですよね。では、作者のデュシャンがこの便器をつくったということでしょうか?

いいえ。彼はこれをつくってさえいません。これは、街中のトイレに設置されているようなありふれた便器です。デュシャンが作者としてやったことといえば、便器を選び、逆さにして置き、端っこにサインをし、《泉》というタイトルをつけた――ただそれだけです。

ここまで「アート思考の教室」をそれなりに楽しんできた方でも、「便器を置いただけのアート作品」なんて、さすがに呆れるか、それを通り越して腹が立ってきたかもしれません。

しかし、そのように感じたのは決してみなさんだけではありません。この作品は、当時の展覧会に展示することさえも拒絶された「超問題作」だったのですから。

みなさんは、なぜこんな作品が「最も影響を与えた20世紀のアート作品」の第1位に選ばれたのだと思いますか? 次回以降では、これについて考えていきたいと思います。

(次回に続く)

■執筆者紹介
末永幸歩(すえなが・ゆきほ)

美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。
東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立つ。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、都内公立中学校および東京学芸大学附属国際中等教育学校で展開してきた。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
彫金家の曾祖父、七宝焼・彫金家の祖母、イラストレーターの父というアーティスト家系に育ち、幼少期からアートに親しむ。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」も企画・開催している。著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。