「どうして健康保険は強制加入なのかね。入るか入らないかは国が決めることじゃなくて、個人の選択に任せるべきだと思うんだけど」
先日、いきつけの小料理屋で、カウンター席の隣に座った常連客のAさん(60歳代・男性)がこんなことを言い出した。
Aさんは中小企業で代表取締役をしている。健康保険料は労使折半なので、雇用主は従業員の保険料の半分を負担する。その支払いがいやで愚痴を言っているのかと思ったのだが、Aさんの真意は違うところにあった。
「自分は、病気になったら治療を受けずに死にたいと思うので、健康保険の必要性を感じていない。どのように生きたいのかという個人の自由を尊重しないで、一律に国が健康保険への加入を強制するのは納得がいかない」
死生観などに合わせて社会保険が必要だと思う人だけ、任意で加入すればいいというのがAさんの考えのようだ。一見、もっともな言い分にも思えるが、果たしてそうした考えで、この社会はうまく成り立っていくのだろうか。
強制加入によるスケールメリットで
健康保険はリスクを分散させている
日本では、誰もがなんらかの健康保険に加入することが法律で義務づけられている。会社員は勤務先の健康保険、公務員は共済組合、自営業や無職の人は国民健康保険。そして、75歳になると、それまでの保険から脱退し、後期高齢者医療制度に移行する。強制加入なので「私は保険が必要ないので入らない」ということは許されない。
それはなぜなのか。民間の保険と比べてみると分かりやすい。
保険というものは、病気の人ほど加入したがるものだ。だが、保険会社の立場から見ると、健康状態の悪い人ばかりが加入すると、病気になる人が増えて保険金の支払いが多くなってしまい、加入者から集めた掛け金だけでは支払いに支障をきたす恐れが出てくる。