急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。生活保護制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。しかし議論をするにあたって、多くの人々が生活保護そのものに対して理解不足であり、また誤解している部分もあるのではないだろうか。本連載では生活保護という制度と、その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、約10回にわたり制度そのもの、生活保護受給者たち、ケースワーカーなど生活保護を支える立場の人々、福祉行政に関する立法を行う立場の人々などについて、現状の「ありのまま」の姿を紹介してゆく。
生活保護費の増大は、
日本の財政を揺るがすか
今日の日本の財政は、増大しつづける社会保障費によって大きく圧迫されている。社会保障費の増大は、日本が赤字国債を発行し続けなくてはならない理由の一つでもあり、国際的な信用力にも関わる問題となっている。昨今、社会保障費の中でも、特に生活保護費の増大が日本にとって大きな負荷であると一般的に認識されている感がある。
厚生労働省によれば、2012年に国民に給付される社会保障費は、109.5兆円となっている(予算ベース)。2000年には78.1兆円であったが、高齢化に伴い増える一方である。ちなみに、2012年の国民所得額(予算ベース)は349.4兆円。2000年には371.8兆円であった。こちらは、労働人口の減少・不況の長期化に伴い、増える見込みはない。(参考:厚労省資料「社会保障給付費の推移」)
社会保障費のうち、生活保護費は3.7兆円である(予算ベース)。社会保障費の多くを占めているのは医療・年金だが、生活保護費が決して小さくない負担であることは間違いない。
このため、生活保護費の削減を目的とした議論が活発である。たとえば自民党は、2012年4月24日に発表した「日本の再起のための政策(原案)」で、「生活保護費の10%削減」を提唱している。ネット世論でも「生活保護受給者の暮しはゼイタクすぎる」という意見が主流である。
では、生活保護費は削減すればよいのだろうか? そもそも、削減できるのだろうか? 削減した場合、「生活保護受給者がより貧困になる」以外に問題は発生しないのだろうか?
結論からいうと、生活保護という制度や生活保護費(最低生活費)は、日本という国の根幹や形態を定めているに近い。単に「生活保護受給を余儀なくされる貧困層を救う制度」という以上の意味があるのだ。生活保護という制度や生活保護費に何らかの変更を加えることは、日本のありとあらゆる部分に影響を及ぼす。その影響は、必ずしも好ましいものばかりではない。