資金調達を繰り返しながら先行投資を続けて事業構築を図るといった経営スタイルを採るスタートアップにおいて、投資家は重要なステークホルダーの1つです。事業を成長させるという点において、基本的に経営者と投資家の目線は一致しますが、時に経済条件の違いに応じてコンフリクトが生じることもあります。経営者と投資家、双方の立場や視点の違い・共通点から、両者の理想的な関係について考えます。
Disclaimer:シニフィアン株式会社はグロースキャピタル『THE FUND』を運営し、スタートアップに投資する投資家の立場にあります。

経営者と投資家の違い・共通点について考えるPhoto: Adobe Stock

エントリー時・エグジット時に顕在化する経済的コンフリクト

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今日は主にスタートアップにおける経営者と投資家の違い、あるいは共通点について考えたいと思います。

前提として、我々シニフィアン株式会社は、『THE FUND』というグロースキャピタルを通じて未上場企業に対する投資を行っておりますし、並行して上場株への投資も行なっています。したがって、我々が話す内容は投資家の立場から考える内容であり、バイアスがかかっている点はご留意いただきたいと思います。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):会社が成長した時にリターンを得られるという意味で、両者ともに会社の成長を望む点での目線は同じです。違いが表れるのは、リスクの取り方です。一社にコミットする起業家・経営者と、投資先のポートフォリオとして複数社を見ている投資家とでは、リスクのとり方が大きく違います。

朝倉:お金だけでなく人的資本という観点も含めて考えると、起業家は多くの場合、持てる限りの金融資産・人的資本を自分の会社にフルベットするものです。対して投資家は、お金も人的資本も複数社に分散させている。そういった違いは明確にありますね。

スタートアップに関して経済面で、投資家と経営者のコンフリクトが如実に生じ得るのは、会社への出資におけるエントリーとエグジットの時点でしょう。

小林:基本的には投資家も経営者も協力して、事業が生み出す富のパイを大きくしていくゲームに参画している者同士ではあるものの、エントリーにせよエグジットにせよ、パイの切り分け方を議論する時にはコンフリクトが発生するということですね。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):念のため、パイの切り分け時に発生するコンフリクトは、単純に「投資家vs経営者」という構図ではないという点は、整理しておきたいと思います。より正確には、新規投資家が出資する時、既存株主と新規株主の間でコンフリクトが発生するということですね。経営者は既存株主でもあり、既存株主を代表する会社の責任者という立場です。その意味で、経営者と新規株主との間には明確なコンフリクトがあります。

一方、既存株主である投資家は、新規株主がエントリーするにあたり、経営者とともに既存株主としてラウンドを設計するわけですから、経営者と目線が揃います。

朝倉:エントリー時のコンフリクトは、基本的に「投資条件はどうか」という条件を巡る調整に集約されます。一方、エグジット時のコンフリクトは、投資条件だけでなく、投資家サイドの投資可能期間などによっても生じますね。

例えば、運用するクローズドエンドファンドの償還期限が迫っている投資家であれば、事業への影響に関係なく、会社側にエグジット-上場であれM&Aによる売却であれ-するよう働きかけることもあるでしょう。

投資条件の違いによって食い違いが生じるケースですと、例えば、創業メンバーは普通株式、後から入った投資家は残余財産が優先分配されるような条件の優先株を保有している場合、上場できる水準にある会社であっても、投資家にとってはM&Aによって売却してもらった方が優先分配の設計上、より大きなリターンが得られるという状況も生じます。この場合、経済的な条件の違いによって、普通株主である経営者と優先株主である投資家の間で完全にコンフリクトが生じているわけですね。

条件の違いによってこうした利害対立が生じることを想定したうえで、エントリー時点では、投資家・経営者がお互いに歩み寄り、後々起きうる状況を想像し、コンフリクトを未然に防ぐような条件設定をしていく事が重要なのだと思います。