若い世代を中心に働き方やキャリアに対する価値観が多様化している昨今、リーダーがパワーを駆使するトップダウン型ではなく、民主的なコミュニケーションを重視するフラット型の組織を目指す企業が増えている。
いまわたしたちが生きているのは、変化が激しく未来の展望を描きづらい「VUCA」の時代。だからこそ、多様な意見をオープンに取り込むことで意思決定の質を高めなければ、不確実な状況に対して臨機応変に対応できなくなってしまう。
しかし、どのような組織であっても、重大な意思決定を下す際には「決断する」というマネジメントの力が必要不可欠なことに変わりはない。
そこで、リーダーによるパワーの使い方を考えるカギになるのが、世界中のビジネスパーソンが強い関心を寄せているEI〈Emotional Intelligence〉(エモーショナル・インテリジェンス/感情的知性)だ。
今回は、パワーを正しく使うためのスキルが満載の、ハーバード・ビジネス・レビューEIシリーズ『リーダーの持つ力』の、独立研究者の山口周氏が著した日本版オリジナル解説「パワーの過去・現在・未来」から抜粋して、3回に分けて紹介する。(構成/根本隼)

信頼されるリーダーになるために不可欠な「あるパワー」とは?Photo:Adobe Stock

支配を正当化する3種類のパワーとは?

 組織や社会におけるパワーの問題を考えると、そこには複数の種類のパワーが紛らわしく併存していることがわかります。パワーについての考察が往々にして混乱しがちなのはここに原因があります。

 では、そもそもパワーにはどのような類型があるのでしょうか? ここではマックス・ヴェーバーによる分類を用いて考察してみましょう。ヴェーバーは著書『職業としての政治』において、支配を正当化するパワーを3つに整理しています。とてもわかりやすい記述なので抜粋をそのまま引きます。

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 第一は「永遠の過去」がもっている権威で、これは、ある習俗がはるか遠い昔から通用しており、しかもこれを守り続けようとする態度が習慣的にとられることによって、神聖化された場合である。古い型の家父長や家産領主のおこなった「伝統的支配」がそれである。

 第二は、ある個人にそなわった、非日常的な天与の資質(カリスマ)がもっている権威で、その個人の啓示や英雄的行為その他の指導者的資質に対する、まったく人格的な帰依と信頼に基づく支配、つまり「カリスマ的支配」である。預言者や――政治の領域における――選挙武侯、人民投票的支配者、偉大なデマゴーグや政党指導者のおこなう支配がこれに当たる。

 最後に「合法性」による支配。これは制定法規の妥当性に対する信念と、合理的につくられた規則に依拠した客観的な「権限」とに基づいた支配で、逆にそこでの服従は法規の命ずる義務の履行という形でおこなわれる。近代的な「国家公務員」や、その点で類似した権力の担い手たちのおこなう支配はすべてここに入る。

――マックス・ヴェーバー『職業としての政治』(岩波文庫)
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「歴史」に基づくパワー

 ヴェーバーの分類を「パワーの源」という観点で整理してみましょう。

「伝統的支配」は、過去からの連続性という「歴史」がパワーの源になります。これはつまり「歴史に基づくパワー」は、パワーを発揮する主体にパワーの源があるわけではなく、その主体に連なる過去の時間の蓄積、その蓄積が生み出す一種の幻想にパワーの源があるということです。

 これは世代を跨いでパワーを継承することを考えた際に重要なポイントです。というのも本人にパワーの源がない以上、どんな人間を持ってきても、正統性さえ担保できればパワーを発揮させることが可能だからです。これは「後継者の能力や人格」という、確率的にバラツキが大きく、極めて制御の難しい問題をバイパスできるという点で、パワーを世襲したいと考える主体にとって好ましい要件と考えられます。