社会貢献とビジネスを両立させるしくみ、「Winの累乗」。連載第1回で、この新しいビジネスモデルのあり方を提唱したのが、たった「20円」で全世界20億人にリーチする活動を展開しているNPO、テーブル・フォー・ツー・インターナショナル(TFT)代表の小暮真久氏。
<自社を取り巻くすべてにおいて『Win』を作り、それをどんどん増やすことが、グローバルにビジネスを成功させることにつながる>という「Winの累乗」について、小暮氏が「本業を通して社会にいいことを成し遂げる」ための実践例を紹介します。
第5回となる今回は、出資者(株主、寄付者)にWinを作るための方法を、「フェアトレード」が全世界的な「うねり」を生み出した本当の理由を探ることで浮き彫りにしていきます。
出資と寄付に、違いはない!?
企業に出資することと、NPOに出資(寄付)することのあいだには、もはや違いはない、と言ったら、みなさんは驚くでしょうか?
今回お話しするContributor――出資者にWinを作る、といった場合、僕らが働くNPOと企業の世界では大きな違いがあると思われがちです。なぜなら企業への出資者、すなわち株主は金銭的なリターンを求めて出資をする、NPOへの寄付者は社会へのインパクトを期待して出資をする、と一般的には考えられているからです。
けれどいま、企業に出資することと、NPOに出資することの違いは薄れつつあると、僕は感じています。株主の方では「社会の役に立っている」企業に出資することで社会貢献したいと思う人が増えているように感じる一方、NPOに寄付をした方も、「いいことをした」と漠然と感じるだけではなく、自分の寄付金が具体的にどのようなインパクトを生んだのか、といった明確な結果を求める人が増えているからです。
今回は、前回までとは一転してNPOの事例、フェアトレードのケースを見ながら、「組織に出資してくれる人にWinを作ること」のこれからの姿を考えてみたいと思います。
金銭的なリターン以外で出資者とつながる、
という新しい潮流
企業の場合、「株主をハッピーにするには、配当をたくさん出すことが一番の近道じゃないの?」と、みなさんはまず思いますよね。たしかにその通りだと僕も思います。実際、資産運用のためというのが、ある企業の株式を購入する理由の筆頭に来ることでしょう。
とはいえ、近年では株式からのリターンを金銭的なものだけではなく、無形の価値や経験にも求める傾向があるとも僕は感じています。たとえばカゴメが出資者のことを「ファン株主」と呼んでいることなどからもわかる通り、株主限定イベントや優待を設けることで金銭以外のリターンを提供し、またそれによって企業と株主とのあいだにエモーショナルな関係を構築しようという動きです。
さらに企業のCSR活動が注目される近年では、「環境に優しい製品を作っている」「社会貢献に力を入れている」ということが、十分に出資の理由にもなり得るのです。
ではこうして「金銭的なもの以外」でリターンを提供しようとするとき、出資者と信頼関係を築き、かつ長期的に株式を保有してもらう――つまり出資者にWinを作るためには、健全な財務状況を維持するほかに、どういったことを施策としてとればよいでしょう?