潜水艦建造契約の廃棄に
仏は猛反発、同盟間にも亀裂

 米中首脳会談から1週間もたたない15日、バイデン大統領は、英国のジョンソン首相、豪州のモリソン首相と共に「自由で開かれたインド太平洋の継続」のため、3国が「AUKUS」を創設することを発表。米英は豪州が原子力潜水艦を導入することを支援することも表明した。

 中国との「衝突回避の責任で合意しながら中国包囲網の強化」をはかるのは「和戦両様」の構えを示す外交戦略ともとれるが矛盾感は免れない。

 中国が米、英、豪の対中同盟AUKUSが結ばれたことに危機感を高めることは不可避だが、潜水艦契約問題では、米国の同盟国側に新たな亀裂を生むことになった。

 豪州はAUKUSの結成により、米、英設計の原子力潜水艦8隻を導入する計画だが、仏の造船会社「ナバル・グループ」との契約を破棄したために、仏政府は激怒し、米豪両国に駐在する大使を本国に呼び戻すなど、仏と米国の関係は一気に悪化した。

 もともと 豪州は2016年、「コリンズ」級潜水艦6隻(スウェーデン設計、国内建造)の後継に、仏の「バラクーダ」級原子力潜水艦をディーゼル・電池式に変えた仏提案の「アタック」級潜水艦の採用を決め、12隻を国内で組み立て、建造する計画だった。日本もリチウム電池を積む最新鋭の「そうりゅう」を提案したが仏に敗れた。

 仏が豪州と結んでいた潜水艦建造契約の廃棄はAUKUS結成まで仏側には伝えられなかったという。

 当初、12隻で500億豪州ドル(約4兆円)の契約が800億豪州ドル(約6.4兆円)に吊り上げられ、維持費も莫大と分かったため、豪州では計画中止も論じられていたともいわれるが、ルドリアン仏外相は「豪米の裏切りはトランプに似ている」「米豪の裏切りだ」と激しく非難、両国から大使を召喚した。

 第三者から見れば、成約後に価格を急増した仏側にも責任はあるが、米、英が注文を横取りする結果となった。これが米英豪と仏の間に大きな溝を作ったことは確実だ。

「AUKUS」の軍事的な効果は疑問
米仏関係の改善は見通せず

 豪州の輸出は34.2%が中国向け(2019年)で、長年中国とは友好関係にあったが、米国でトランプ政権が誕生すると、米中対立激化の下で、豪州も米国寄りの姿勢をとることになった。

 最近では新型コロナウイルス感染問題で、豪州が米国と歩調を合わせるように、中国に情報開示の不足を指摘したことに対して、中国側が豪州からの輸入規制を実施するなど関係悪化が決定的になっていた。