選手の安全を置き去りにしてはいないか

 外交ボイコットに関連して、スポーツの側からもう一つ問いかけをしよう。

「選手を犠牲にしない外交的ボイコットならするべきだ」と多くの国民が支持しているようだが、それこそ「詭弁(きべん)」ではないか。もっと大事なことを見損なっていないだろうか。

 選手が北京に行き、予定どおり競技ができるならいいが、滞在中の安全は誰が保証し、誰がそれを確認し求め続けるのだろう。

 IOCが全部その責任を持ち、中国側と交渉し監査するのだろうか。パスポートの発行者は誰か?入国審査の際、どんな理由で選手は入国を許されるのか?彭帥選手の安全が本当の意味で確認できない状態で、日本選手の中から同様に自由や安全を脅かされる選手が出ない保証はあるのか?政府は、まさにその保証を中国当局に求め、入国から出国まで、安全に過ごし、競技に参加できるよう求めるのが務めではないだろうか。それが、スポーツや国民レベルでの外交ではないか。

 もし政府が、外交ボイコットをするなら、そして国民もそれを望むなら、選手は無保証の外地に放り出され、日本政府から見放された後ろ盾のない状況で競技に参加することにならないのか。それを考えれば、私は政府に外交ボイコットを求める気持ちになどなれない。

(作家・スポーツライター 小林信也)