「てらいのない」の本当の意味は?今こそ文章術に辞書が必須の理由写真はイメージです Photo:PIXTA

時代が変われば、従来の言葉の意味が変わったり、新語が生まれたりする。今の時代は特に文章が不特定多数にインターネットで拡散されるため、正しく伝えるためにも、言葉の意味を辞書で確認することが重要だ。特集『最強の文章術』の#6では、30年以上、毎日新聞で校閲記者として活躍し、用語委員会用語幹事などを務めてきた岩佐義樹氏が解説する。(毎日新聞社校閲センター元部長 岩佐義樹)

伝わらない文の悪例「てらいのない文章を書こう」

 辞書なしに文章を書くというのは車がないのに「運転するぞ」というのとほとんど同じこと――と故・井上ひさしさんはいう(『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』新潮文庫)。辞書好きで知られた作家だが、辞書が好きであろうがなかろうが、確かに書く作業に辞書は必須だ。

 しかし、辞書はどれも同じというわけではない。辞書が違えばそれぞれの編集方針などから少なからぬ部分が異なるし、同じ題名の辞書でも改訂のたびに変わる語も多い。

 例えば、「てらいのない文章を書こう」という文があるとしよう。あなたはどういう意味だと考えるだろうか。

 これだけでは人に正しく伝わりにくい文章、悪文である。「てらいのない」が、引く辞書の考え方によっては複数の解釈ができてしまう誤解を生みやすい言葉だからだ。