「そんなにひどい職場ならさっさと転職すればいいのに」。いくら周りがそう思っていたとしても、パワハラを受け続けている間は、会社を辞めるという選択肢すら浮かばなくなる…。そう語るのは、『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』著者・わび氏だ。冷静な判断ができなくなる前に、メンタルを病まないための自衛術を学んでほしいと上梓した本書の発売を記念し、今回は、『生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』著者のバク@精神科医氏と特別対談を実施。仕事や人間関係で病まないコツを、徹底的に語り合ってもらった。(取材・構成/川代紗生)

重度のパワハラ経験者にしかわからない「それでも会社を辞められない理由」Photo: Adobe Stock

過労死レベルの状況で耐え続けた1年半

──コロナ禍の影響もあってか、仕事で追い詰められてもストレス発散の方法がなく、落ち込んでしまう人も多い、という話をよく聞きます。わびさん、バク先生のお二人も、メンタルダウンしてしばらく精神科に通ったご経験があるとか。

わび:私は月約200時間の残業と、パワハラが原因でしたね。

 自衛隊で幹部自衛官として働いていたのですが、当時、同期の中で成績がトップクラスだったこともあって、「周りの期待を裏切れない」というプレッシャーが強かったんです。

 ちょうどプライベートでは双子が生まれた時期で、もちろん子どもが生まれたことは喜ばしいことではあったんですが、職場でも家でも気が休まる暇がなく、ある日突然、ポッキリと折れてしまったんです。

 職場で倒れて、動けなくなってしまいました。

バク:私も昨日、今回の対談に向けてわびさんの『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』を読み直していたんですが、「いやいや、耐えすぎやろ」とツッコミを入れてしまいました(笑)。

 正直、精神科医として度肝を抜かれましたよ。たぶん普通の人だったら、もっと早くにギブアップしていたんでしょうね。

わび:そうですね。一度上司に相談したんですが、典型的なパワハラをする人だったので、まったく取り合ってもらえませんでした。

 結局、職場で倒れて病院に運ばれてようやく立ち止まることができた。1年半くらいはその環境で耐え続けていたと思います。

バク:限界をかなり超えたところまでがんばってしまったんですね。その分、回復にかなり時間がかかったんじゃないですか?

わび:メンタルダウン前と同じペースで働けるようになるまでは、1年以上かかりました。

 もう少し早く別の道を選べていれば……と今なら思えるんですが、追いつめられているときって、やっぱり冷静に判断はできないんですよね。

バク:たぶん、一般的には3ヶ月で過労死するレベルの職場だったのに、わびさんは体力があるばかりに長い間、耐え続けてしまったんでしょうね。

わび:それでもメンタルダウンしていた当時は、「たかが1年半程度のパワハラにも耐えられなかった自分はなんてダメなんだ……」と劣等感の塊で、本気で自殺を考えていました。

重度のパワハラ経験者にしかわからない「それでも会社を辞められない理由」わび
航空業界で働く危機管理屋。
某国立大学卒業後、陸上自衛隊幹部候補生学校に入隊。高射特科大隊で小隊長になり、その後、師団司令部や方面総監部で勤務。入隊後10年間は順風満帆だったが、早朝から深夜までの激務と上司によるパワハラが重なり、メンタルダウン。第一線からの異動を経て、「出世ばかりが人生ではない」「人に認められるためではなく、もっと楽しく生きたい」と思い、市役所に転職。激務だった自衛隊時代に比べると天国のような場所だったが、自らの成長の機会を得るため、転職後1年半で航空業界にキャリアチェンジ。給料は市役所時代の倍に跳ね上がった。自衛隊などの社会人経験で身につけたメンタルコントロール術、仕事や人間関係に対する向き合い方などを中心にツイッターで発信を開始。普通の会社員にもかかわらず、開始して2年でフォロワー数が8万人を突破。ツイートはネットニュースなどにも取り上げられ、人気を博している。2022年2月現在、Twitterフォロワーは12万人。『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』が初の著書。Twitter(@Japanese_hare)
重度のパワハラ経験者にしかわからない「それでも会社を辞められない理由」バク@精神科医
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー5万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす​生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。