国税のDX戦略「KSK」の正体、コロナ禍でも儲かった業界を狙い撃ち調査?写真はイメージです  Photo:PIXTA

国税庁のDX戦略の柱と噂されるKSK(国税総合管理システム)。「国税庁はAIを使って調査対象者を探し出す」だとか、「KSKがはじき出した理論値と大きな乖離がある者を選び出す」などの都市伝説がまことしやかに流れている。しかし、KSKには調査対象者を見つけ出す機能は備わっていないため国税職員は鼻で笑っている。本稿では、実際の調査現場ではどのようにして調査対象者を選び出しているのか、さらに2022年に狙い撃ちされそうな業界を紹介したい。(元国税査察官・税理士 上田二郎)

なぜAI調査の都市伝説が生まれたのか?

 先日、ある週刊誌の記者から「税務調査の特集を組むので、どのように調査対象者を選び出すのかについて、特にAIを搭載したKSKの能力について教えてほしい」との取材依頼があった。筆者は「調査の選定は経験と感性が重要で、KSKにはそんな能力はないよ」と答えたのだが、その少し前にも別の週刊誌記者から同じ質問をされている。

 国税庁の発表によれば、AIを使って対象企業を選び出す新システムは大企業が対象となる。公表されている財務資料や会社の業績を説明する音声データを分析し、脱税の疑いがある会社を絞り込むという。しかし、こんなもので脱税者が見つかるなら調査官は苦労しない。

 新システムは、実際にあった脱税や申告漏れの手口をAIに学習させ、公開の財務資料を分析させるとのことだが調査は常に後追いだ。時流に乗った会社が大もうけをしたものの、納税資金が惜しくなって申告額を細工するのだが、調査に入るのは3~5年後。脱税の手口を見つけ出したときには、すでにその手口は古くなっている。

 そもそも、利益を稼ぎ出すこと自体もワンパターンではなく、脱税手段も千差万別のため、調査対象者の抽出には他社との比較や過去のデータは役に立たない。さらには、大企業には公認会計士や税理士が関与しているため、もし前年の申告データと比較して異常数値があるなら、原因を追究してから申告書を提出する。

 また、決算説明会に出席した経営陣の音声データや、年次事業報告に掲載された経営トップの写真やメッセージを分析するとのことだが、こうなってくるともはや占い並みだ。

 AIに頼る背景には調査官の劣化があるのだろう。OBとして税務調査で対峙すると、あまりの調査能力の衰えに悲しみすら覚える。