石油・ガスパイプラインが「武器」にならないという誤算

 SWIFTからのロシア排除の決定は、ロシアが石油・ガスパイプラインを国際政治の交渉手段として使えなかったことを示す(第52回)。排除が実施されれば、ロシア経済の大部分を占める石油・天然ガスのパイプラインでの輸出の取引が停止し、ロシアは国家収入の大部分を失う。

 取引相手である欧州は、コスト高に直面はするが、LNGを米国、中東、東南アジアからかき集められる。ジョー・バイデン米大統領とウルズラ・ファンデアライエン欧州委員長が、EUが約4割をロシアに依存する天然ガスについて、欧州への安定供給維持のために連携する方針を表明する内容の共同声明を出した。

 また、バイデン大統領は、液化天然ガス(LNG)の有力産出国であるカタールを、北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国である「非NATO同盟国」に指名する考えを表明した。カタールに対して、欧州へのガス供給量の引き上げを期待している。

 さらに、欧米のオイル・メジャーが次々とロシアの石油・ガス事業から撤退している。英BPは、19.75%保有するロシア石油大手ロスネフチの株式を売却し、ロシア国内での合弁事業も全て解消して撤退することを決定した。米エクソンモービルも、ロシア・サハリンでの石油・天然開発事業「サハリン1」から撤退、英シェルが「サハリン2」から撤退を表明した(第90回)。シェルは、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」、シベリア西部の油田開発などからも撤退する。

 ロシアの石油・天然ガス開発は、歴史的に欧米のオイル・メジャーに依存してきた。メジャーが持つ掘削・採取・精製の各段階の技術、外国市場での販売ネットワークや資金力なしでは、ロシアの石油産業は成り立たなかったからだ(第103回・p2)。

 メジャーの撤退は、ロシアの石油・天然ガス事業の存亡に関わる事態となり得る。そして、ロシア経済そのものの崩壊につながりかねない(第142回・p2)。