少人数だから実現できる“子どもへの接し方”

 はじめのいっぽ保育園の子どもたちについて聞くと、横田さんは、「ルカ、カイト、アユミ、セイゴ、ミゲル、エンゾ……」と指を折りながら名前を挙げていった。園内を案内してくれた横田さんが子どもたちと接する様子からも、横田さん自身が一人ひとりの乳幼児と深く接している様子がうかがい知れた。この春で5年目を迎えたはじめのいっぽ保育園だが、直近の課題は何だろう?

横田 はじめのいっぽ保育園で育った子どもと、規模の大きな公立保育園で育った子どもには、小学校入学時に「集団への慣れ」といった面での違いがあるかもしれません。3・4・5歳の子どもは集団生活での学びが大切な時期で、公立保育園には、20~30人の子どもたちが集まります。園内で遊んだり、ケンカしたりしてコミュニケーション力を得ていくわけです。

 0歳から2歳児の保育は、どこも定員オーバーになりやすく、外国人利用の多いはじめのいっぽ保育園に日本人の子どもたちもやってきますが、3~5歳児はそうではありません。他の保育園も定員数にゆとりがあるので、「はじめのいっぽ(保育園)じゃなくて、公立でいいんじゃない?」と考える保護者もいらっしゃいます。多人数の保育園に入れた方が日本語を学べると思うのでしょう。「ここ(はじめのいっぽ保育園)は大好きだけど、3歳になったら公立に移る」と言う、ブラジル人の親御さんもいます。はじめのいっぽ保育園は、少人数だからこそ、日本人の子どもも多国の文化にたくさん触れることができ、さまざまな言語に出合えます。外国人の子どもたちにとっては、日本語が自然と身につく環境になっているので、多様性の理解が育まれる場所という魅力をもっと発信していきたいですね。

 園内の様子を見学すると、日本人の保育士さんが日本語のあまり話せない子どもに対して、ゆっくりした言葉と分かりやすいゼスチャーで向き合っていた。

 大きな声を上げながら園庭を駆け回る子、その後ろをついていく子、全体の様子を見守っている子……横田さんにボディタッチし、取材のカメラに笑顔を向けてくる子どもたちに、国境はない。

横田 外国人の子どものなかでも、活発な子は他の子にどんどん働きかけ、小学生になる頃には日本語がペラペラになります。そういうタイプの子は公立保育園のような多人数の場で問題ありませんが、シャイな子は、大きな集団に入ってしまうと、周りに合わせるだけで、自分の考えを言えなくなってしまうケースがあります。そういうお子さんは、はじめのいっぽ保育園のようなところで、先生と一対一でおしゃべりして、「自分はこうしたい」「自分はこれが好き」と表現していくことが良い成長につながります。外国人の子どもに限ったことではなく、日本人のお子さんもそうです。

 たとえば、この近くに500人の児童中100人がブラジル人の子どもという小学校もありますが、児童たちを見ると、積極的に日本語をしゃべる子がいる一方で、環境になかなかなじめない子もいます。日本語の助詞の使い方を間違えて笑われたりすると、日本語を話すこと自体が嫌になり、ますますシャイになってしまう……。はじめのいっぽ保育園では、子どもたちが自分の考えを相手に伝える力をしっかり身につけて、「自分のことをもっと話していいんだ」「自分が話すポルトガル語も大切なんだ」と思えるようにしています。