多くの企業が取り組む「ESG経営」。社会での重要性は高まっているものの定着しているとは言いがたい。しかし、すべてのステークホルダーの利益を考えるESG経営こそ、新規事業の種に悩む日本企業にとって千載一遇のチャンスなのである。企業経営者をはじめとするビジネスパーソンが実践に向けて頭を抱えるESG経営だが、そんな現場の悩みを解決すべく、「ESG×財務戦略」の教科書がついに出版された。本記事では、もはや企業にとって必須科目となっているESG経営の論理と実践が1冊でわかるSDGs時代を勝ち抜く ESG財務戦略』より本文の一部を抜粋、再編集してお送りする。

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ESG/SDGs時代のリーダーシップ

 ESG/SDGs経営成功のためには、事業やビジネスモデル、組織変革の視点が絡むため、一部のサステナビリティ関連部署やIR部門の対応だけでは限界があります。

 ですので、経営陣自ら率先してESG/SDGs経営のビジョンを示し、キーパーソンを社外からも招へいしながら、企業変革に経営陣自らコミットしていくことが必要になります。

 ESG/SDGs経営推進に向け必要なリーダーシップのヒントについて、以下の3つにまとめました。ケースと合わせて、それぞれ見ていくことにしましょう。

1.経営者自らが語りかけよう
2.一貫したストーリーを見せよう
3.顧客参加を促そう

経営者自らが語りかけよう

 真っ先に求められるのは、経営陣によるビジョン提示とその姿勢です。

 前節でみたとおり、ESG/SDGs経営の長期的な取り組み成功のためには、サステナビリティと事業戦略の融合と自社を取り巻くステークホルダーへのお役立ちの視点、そしてそれらをどのように顧客価値に変換できるのかを経営陣自ら明確に語る必要があります。

 これは、機関投資家を始めとした社外のステークホルダーのみならず、現場でESG/SDGs経営を進める社内の関係者にも明確に方針を示す必要があるでしょう。

 ときに発言の過激さやブレを指摘されつつも、ツイッターを活用し、自動運転技術の進捗や自身の株式売却まで、率直にメッセージを語るテスラのイーロン・マスク氏(ちなみに同社は、企業規模と比較し、広告費にほとんど費用を費やしていないことで知られています)、また、CEO就任時に持続可能なビジョンをもつ投資家のみを募集し、短期志向の投資家との訣別を述べたユニリーバの元CEOポール・ポルマン氏など、ESG/SDGs経営の推進に向け明確なビジョンを示しているCEOが多く見られます。

 ダイナミック・ケイパビリティの視点では、まさにこれまで述べてきた、ESG/SDGs関連での事業環境変化の把握(Sensing)、社内ニーズや事例を起点にした事業機会/資源の補捉(Seizing)、そしてESG/SDGs経営の実現に向けた事業戦略やビジネスモデルの変革(Managing Threat/Transforming)を実行できるのは、経営陣を除いてはほかに存在しません。

 BNPパリバがあえてサステナビリティ関連部署を置かないのも、サステナビリティの実現に全社でコミットしている経営陣の覚悟の表れともいえるでしょう。

 これはESG/SDGs経営に限った話ではなく、今後匹敵する事業環境変化が起きた場合にどのように企業変革を進めていくのか、たとえば、ESG/SDGsというキーワードをAIや機械学習、量子コピューティングなどに置き換えた時に、経営陣としてどう対応すべきなのか。

 今後、次々と起こる事業環境変化への対応のあり方として、ESG/SDGs経営を巡る一連の議論は、日本企業の変革力に大きな問いを投げかけています。