8%台の緩やかな回復

 中国経済は2012年8月にボトムを打ち、緩やかに回復しつつある。工業生産、固定資産投資、消費といった主要経済指標を見ると、いずれも9月以降反転上昇している。消費者物価も6月以降2%前後で安定的に推移しており、マクロ経済は良好な状態で推移している(図表1参照)。

【テーマ5】中国経済<br />従来型の投資主導型・景気拡大が続く<br />中所得国の罠の回避が新政権の課題<br />――キヤノングローバル戦略研究所研究主幹<br />瀬口清之せぐち・きよゆき
1982年東京大学経済学部卒業後、日本銀行入行。1991年4月より在中国日本国大使館経済部書記官。2004年9月、米国ランド研究所International Visiting Fellow。06年3月より北京事務所長。09年3月末日本銀行退職後、同年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹、杉並師範館塾長補佐(11年3月閉塾)。10年11月、アジアブリッジ(株)を設立。

 足許の景気回復には主に3つの要因が働いている。第一に、12年4月以降の金融緩和と積極財政を背景に、地下鉄、道路建設など地方のインフラ投資が増加し始めている。第二に、5月以降、不動産価格が上昇に転じたため、先行きの値上がり期待が高まり、不動産投資が回復しつつある。第三に、経済のサービス化も大きな支えとなって雇用が増加し、賃金も上昇して所得を増大させ、堅調な消費を支えている。これらの3つの要因は今後も景気を押し上げ続ける。

 足許の景気回復に続いて、13年4月以降、習近平政権の政策が本格始動するに伴い、大型のインフラ建設等国家プロジェクトが動き出す。このため、来年は従来型の投資主導の形で景気拡大が続く見通しである。

 ただし、先行きは欧米向け輸出の伸び悩み、不動産取引規制の継続が予想されることに加え、リーマンショック後の超金融緩和によって、急速に拡大した銀行貸出が不良債権化しており、その処理が13年にピークを迎えるなど、景気拡大の足かせ要因が残る。このため、13年の回復は緩やかなものとなり、成長率は8%台前半に留まると見られている。

【テーマ5】中国経済<br />従来型の投資主導型・景気拡大が続く<br />中所得国の罠の回避が新政権の課題<br />――キヤノングローバル戦略研究所研究主幹<br />瀬口清之