写真:日本銀行本店の外観日本銀行本店の外観 Photo:PIXTA

日本は、日本銀行による異次元金融緩和の長期化が原因である「わな」にはまり、抜け出せなくなっている。そのことは、最近特に問題視されている日本の賃金が上がらない要因にもなっている。今の日本が陥っている深刻な悪循環の実態に迫る。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

アベノミクスによる経済成長の幻想
同時期の海外に大きく劣後

「デット・トラップ(債務のわな)」。日本銀行の超金融緩和策が長期化する中、日本経済はそこから抜け出せなくなってしまっている。

 超金融緩和策の効果は実は限られているが、それによる「痛み止め効果」に依存する経済主体が増えており、日本政府の「借金漬け」の深刻化とともに出口に向かえなくなる悪循環が起きているのだ。

 まずは近年の日本の経済成長の推移を振り返ってみよう。下表は5年経過ごとの累積実質国内総生産(GDP)成長率の変遷を示している。日本の他に先進国28カ国(22年時点で人口500万人以上の先進国)の平均値と、その中における日本の順位も記載した。

 2007~12年の日本は、リーマンショックや東日本大震災、ユーロ危機などによりマイナス1.7%もの落ち込みを見せた。

 ただし同期間の先進国28カ国中の成長率では21位であり、前の期間(02~07年)の25位よりも実は順位は上がっていた。他国の悪化がより激しかったからである。

 一方、13年には日銀の異次元緩和を中核的政策とするアベノミクスが開始され、12〜17年の成長率は6.4%に達した。マイナスからプラスへの転換だったこともあり、それらの政策の効果が当時は華やかに見え、世論はそれをもてはやした。

 しかしながらそれには勘違いも含まれていた。実は他の先進国は同期間に一層の成長を遂げていたのである。先進国28カ国平均は12.4%だった。これにより日本の順位は逆に23位へと下落した。

 続く17〜22年の期間は、日本は若干のマイナス成長だ(国際通貨基金〈IMF〉による推計)。先進国における順位はさらに低下し、最下位の28位になるとみられている。

 このように海外諸国の同時期の成長と比較しながら評価すると、異次元緩和およびアベノミクスは決して褒められた成果を上げてこなかったことが分かってくる。22〜27年の期間の成長率も日本は最下位の28位と予想されている。

 だが今の日銀に緩和策を変更するつもりはみじんもない。持続的な賃上げが見えてくるまで金融緩和を継続しなければならないと考えている。日銀が「インフレ目標」として掲げる物価が毎年2%ずつ上がり続けていく経済を実現するには、一般論としては賃金が毎年3%以上は上がり続けていく必要がある。

 しかしながら、現実には、金融緩和の長期化は持続的な賃上げを阻む方向で働いてしまっている。

 なぜそのような状況に陥ってしまったのか?そして、日本がはまりこんだ「デット・トラップ」の深刻な実態とはどれほどのものなのか。