職場や家庭、SNSなどで、その場の感情に任せて相手に怒りをぶつけてしまい、後悔したことはありませんか。発端はささいなことだったのに、ぶつけてしまった怒りが人間関係を傷つけ、その後、取り返しのつかない大事に発展することも少なくありません。
そんな失敗をしないために必要な、怒りをうまくコントロールして日々を平和に穏やかに過ごすコツを教えてくれるのは、精神科医の伊藤拓先生です。
20年以上にわたり、のべ5万人を診てきた先生の著書『精神科医が教える 後悔しない怒り方』から再構成して紹介します。(初出:2021年8月29日)

【驚くほど効果あり!】精神科医が教える、イライラして爆発しそうになったら試してみてほしいこと【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock
伊藤拓(いとう たく)
精神科医
昭和39年、東京都西東京市出身。東京大学理科Ⅱ類(薬学部)卒業後に医師を目指し、横浜市立大学医学部医学科に再入学。卒業後に内科研修を1年履修した後、精神科に興味を抱き、東京都立松沢病院で2年間研修する。平成5年に医師免許、平成10年に精神保健指定免許を取得。現在、大内病院副院長。
精神科医としてこれまでの27年間でのべ5万人以上を診ている。統合失調症、気分障害(躁うつ)、軽症うつ病の分野で高い評価を得ている。

怒りはどこで生まれているのか?

みなさんの中にも衝動的な怒りに駆られて失敗をしてしまった経験を持つ方が多いのではないでしょうか。

仕事関係でも友人関係でも、衝動に駆られてキレたり怒鳴ったりしてしまうのはよくありません。カーッとなって怒鳴ってしまったら最後、その関係性が終わってしまうことが少なくないのです。

では、怒りの感情がどこで生み出されているかをご存じですか? それは、脳の内部の「扁桃体」という場所です。

扁桃体は脳において、怒り、不安、好き嫌い、不快、恐怖、緊張などの情動反応を処理している場所です。とくに、ストレスを受けた際に嫌悪感、憎悪、憤怒、不満、不安などのマイナス感情を高めやすく、こうした情動反応によって扁桃体が興奮してくると怒りに駆られやすくなるわけです。

つまり、ちょっとしたことでキレやすい人、すぐにカーッとなりやすい人は、扁桃体が興奮しやすい傾向があるのです。しかも、扁桃体はその興奮をエスカレートさせやすいという特徴を持っています。

これは、最初のうちはちろちろと小さく火が燃えているくらいであっても、興奮がエスカレートしてくると、どんどん怒りの火が大きくなって、やがて止められないほどの勢いになるということ。つまり、我を忘れて怒鳴り散らしたりケンカをふっかけたり暴力を振るったりといったときは、扁桃体が大興奮して暴走しているような状態になっているのです。

ですから、怒りをうまくコントロールしていきたいのであれば、扁桃体の興奮を抑え、暴走を食い止めていく必要があるということになります。

「怒り」に対処するためのステップ1

では、いまにもヒートアップしそうな怒りを抑えて、感情をうまくソフトランディングさせていくには、いったいどんなことを心がければいいのでしょう。

それには次の3つを基本にするといいと思います。

【ステップ1】沈黙:口を閉じて沈黙を維持する

【ステップ2】分析:冷静になって怒りのタイプやパターンを分析する

【ステップ3】アクション:怒りをコントロールするための行動を起こす

この3つのステップを基本としつつ対応していけば、怒りの感情を静めることができるはず。とにかく、イライラして怒りの感情が湧いてきたら、まずはステップ1として、余計なことを口走らず、沈黙をキープすることを試してみてください。

自分が相手に発した攻撃的な怒りの言葉に刺激されて、ますます怒りの火が燃えさかってしまうことが少なくありません。

ですから、怒りに火がつきそうなときは、余計なことをしゃべらずに、じっと沈黙を守るほうが得策なのです。

こういう場面での言葉は、感情を刺激しかねない危険物であり、怒りの火を大きくする薪のようなもの。とにかく、相手に対しても自分に対してもヘタに言葉で刺激をしないほうがいいのです。

そして、口をつぐんで黙っている間は、意識して冷静になるように努めるべきでしょう。

そうやって「沈黙を守って、落ち着きを取り戻すんだ」という意識を持っていれば、それだけでも怒りが衝動的な方向へ展開していくのを防ぐことができるはずです。