ステージ0から分かる最新がん検診

かつて、がんは「告知=死」と恐れられました。ところが、抗がん剤やがん治療の進歩は目覚ましく、近年「がん全体の5年生存率は60%強」と言われるまでになりました。しかも、ある条件さえ満たせばほぼ90%は死なない病気になりました。ここでいうある条件とは「早期発見」です。早期発見して治療開始した症例だけを見ると、ほぼ100%に達しています。がんは早期に発見して治療すれば、延命ではなく、治癒できる病気になりつつあるのです。この連載では書籍『「がん」が生活習慣病になる日』から、「死なない病気」に近づけた条件の一つである部位別がん治療の最前線を紹介し、さらに二つ目の条件である「早期発見」のがん検診の最新情報も紹介していきます。

がん検診の受診率がアップしないカラクリ

 ここまでの連載で今やがんは早期発見できれば、すでに克服できる病気になってきていることお分かりいただけたと思います。

 ところが、自治体が実施したがん検診の受診率は、コロナ禍前の令和元年(2019年)でも、「胃がん」7.8%、「肺がん」6.8%、「大腸がん」7.7%、「乳がん」17.0%でした。日本のがん検診全体の受診率は3~4割程度で欧米諸国の7~8割に比べると半分程度です。ここまで低いと医学や医療技術が進歩しても、早期発見がかなわず、長期生存が実現できないことになります。がん治療における5年または10年生存率を押し下げる結果になってしまいます。

 それにもかかわらず、がん全体の5年生存率は60%強というのですから、医学の進歩がいかに目覚ましいがわかります。さらに、早期発見・早期治療のためのがん検診受診率がアップしたら、5年生存率が劇的に増加するのは間違いないでしょう。

 国が推奨するがん検診は、5大がん(肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がん)しかカバーされていません。現状では、がんを確実に早期発見したいのなら、高額な人間ドックを自己負担で受けるという選択しかないのかもしれません。

 このようながん検診のあり方について研究しているA医師は、「多くの国民が、がん検診を他人事だと思っている」とさえ言っていました。

 がん検診には“過剰診断”の問題もあります。見つけなくてもいいがんまでを見つけてしまう問題です。

 がんが検診で見つかったからといって、すぐに治療が必要なケースばかりではありません。進行が非常に遅く、罹患していてもそのまま天寿をまっとうできる可能性の高いものもあれば、自然消滅してしまうものもあります。

 そもそも、がん細胞は健康な人の体内でさえ、一日に5000個も発生しては消えていくことがわかっています。

「死なない」から「よりよく生きる」治療へ

 がんを治療することよりも、健康および寿命を長く延ばすことのほうが大切です。

 では、対策型検診を有効に活用するには、どんな検査を、どのように受けるのが良いのでしょうか。

 前述のA医師によると、国が“損をしない”観点から推奨しているのは五つの検査(5大がんの検診)です。これは検査による被ばくなどのダメージを最小限にとどめながら、「がんかもしれないもの」を発見して、再検査につなげるがん検診のプランです。1回の検診でがんかどうかを精密に判定するのではなく、疑いのある場合には、精密検査にゆだねることで、がんを無駄なく見つけるものです。

 がんの検査方法にはたくさん種類があるのに、「これだけ?」と思う人もいるでしょう。けれども、無駄のないという観点からはこうなります。たとえ新しい検査によってがんの発見率が上がったとしても、死亡率の低下が科学的に検証された数値で確認できなければ、評価されないからです。

 しかし、今やがんは治療しながら働いたり、生活したりする人が大勢いる病気です。もはやがんで死なないことが望みではなく、いかに早期発見し、よりよく生きられるよう治すことこそ、多くの人が期待するところでしょう。

 個人にとって、がんで亡くなる人が何人減ったかなどの統計データはただの数字に過ぎません。たとえ10万人あたり数人しかかからないとしても、自分や家族がなってしまえば、それがすべて。賭け事ではないのですから、単に運がよかったとか悪かったでは納得できません。がん検診に対して、国の目指すものと私たちが求めるものとでは、乖離があるのではないでしょうか。

 自分や家族がずっと元気でいること。それにはやはり早期発見が第一です。昨今では早期発見による早期治療で100%近い方が治癒しているのです。

自治体などの対策型検診は必要最小限の仕組み

 自治体の対策型検診は、研究者や医師、行政といった異なる立場の意見を集約したものであり、国の責任のもと、慎重過ぎるほど慎重に取り決めが行われ、必要最小限の仕組みになっています。まずは自治体の検診をきちんと受けて、そのうえで本当に必要な検査だけを追加すべきでしょう。

 一方、人間ドックは、個人が自分でオプション費用を負担して、個人の判断で受けるものです。検査メニューは各医療機関の裁量によって決められます。検査費用が高額なことから、最先端の検査が提供されていると思い込んでいる人が多いようですが、実際には検査メニューを決めているのは、医師や研究者ではないのが実状のようです。

 例えば、オプションメニューに「PET-CTは全身のがんを見つけます」と書かれている場合がありますが、PET検査はがんがブドウ糖を大量に取り込む性質を利用して、微量の放射性物質をくっつけたブドウ糖を投与した後、CTで全身を撮影する検査です。がん細胞があるところは光るので発見できる仕組みですが、胃、大腸、前立腺、膀胱のがんを見つけるのは不得手なことがわかっています。

 残念ながらほとんどの場合、人間ドックを実施している医療機関から受診者に対して、そうした説明は行われていないようです。