時代遅れの設備と
高齢化する職人たち

 現在、川口市内のほとんどの大規模な鋳物工場は、コンピューター制御された電気炉で鉄を溶かすが、ベーゴマはキューポラという円筒形の設備を使う。キューポラとは、コークス(炭素)を燃やして鉄を溶かす溶解炉のことだが、これを扱うのにも職人芸を必要とするという。

「ベーゴマは硬度が肝。軟らか過ぎればすぐ削れてしまうし、硬過ぎてもダメ。本来ベーゴマは、ぶつけたときに“ガチンガチン”と音を鳴らして“つばぜり合い”をしますが、硬いと“キーン”と音がはじけてしまい、味が出ません。電気炉で作るとどうしても硬くなりがちですが、キューポラでならちょうどいい硬度で仕上がります。ただし、キューポラは用途に応じてコークスの量、溶かす鉄原料の比率、温度などをその都度調整しなければならず、扱うのが非常に難しい設備です」

 また、キューポラはCO2ガスや粉塵(ふんじん)、臭いや蒸気、騒音などを発生させてしまう。そのため、環境問題への懸念やご近所トラブルから減少の一途をたどっている。そうした時代の中、かくいう日三鋳造所も1998年に自社工場を閉鎖せざるをえなかった。現在、同社は簡単な作業場と事務所を残すのみとなっており、大掛かりな設備や職人もいまは抱えていない。そのため、製造工程の大部分は請負業者(河村鋳造所)にノウハウを伝えて委託。辻井社長は元請けとして製造手配、仕上げの磨きやパッケージング、出荷などを担っている。

「キューポラに対してはさまざまなご意見があるとは思いますが、多くの利用者さんからは『昔ながらの手法で作ったベーゴマのほうがやっぱりいい』と絶大な支持を得ています。しかし、市内でもキューポラを持つ鋳物工場はそれほど残っておらず、使いこなせる職人も減ってきました。若い人の多くは大規模工場に就職してしまうし、ベーゴマ作りの仕事は過酷なため後継者も育ちにくい。請負業者の職人たちも60~70代ばかり。ベテランなのでもちろん腕はいいですが、正直いつまで持つかわかりません」