共通テストの「出題方針」は変わらない

私大文系入試は「機能不全」に?進む少子化と受験生の心構え安田賢治 (やすだ・けんじ)
1956年兵庫生まれ。灘中学校・高等学校から早稲田大学政経学部に入学。在学中、世界各地を放浪し、占い師の見習いも経験。卒業後、1983年大学通信に。同社常務取締役と情報調査・編集部ゼネラルマネージャーを兼ね、さまざまな媒体に大学情報を提供してきた。中学受験から大学入試まで語れる希有な人材だった。2022年3月13日逝去。

後藤 数学は2023年度もまた「どひゃん」となるでしょうね。というのも、22年度の共通テストの結果を受けた新聞記事の見出しが「共通テスト数学是正」となっていたからです。大きく低下した平均点を見て、「“是正”というのだから方針が変わるんだ、いままで通りでいいんだ」と思い込んでいる数学の教員がいっぱいいます(笑)。そもそもWebニュースの見出ししか読まない教員もいますしね。

 しかし、是正する対象は出題方針ではなく、多すぎた計算量です。いままでの出題方針が変わるわけではありません。

石川 そういうものが出ていても、教員は見ていないですねえ。それでいて、問題が変わったことに対しては怒るんです(笑)。

後藤 先ほど述べたように、要項の中で求められているのは「課題解決」「探究」能力です。そのことを皆、忘れている。高校も予備校も「大学入試の基礎知識」は生徒に伝えるものの、大学入学者選抜実施要項に書かれているような「根本知識」を、高校側は得ていないですからね。だから模擬試験の出題を鵜呑みにして、善し悪しを評価できない。

石川 校内でも実施しているので、先生方にとって模擬試験が一つの指標になっています。

後藤 教員には、自分の授業を変えない、変えたくない、変えられないところがあります。状況は変わっているのに、自分の教え方に固執してしまう。それが過去問や模試にアジャストしてきたものだから模試でいい成績が取れればということになる。ただ、模試を作成していた立場からすれば、「ダメじゃないの」と思います。模試の問題がそのまま入試問題で出るわけがない。そして、今回の共通テストのように出題方針が変われば、過去問対策は意味をなくします。

――たまに模試の問題が入試で実際に出ると、「的中した」とニュースになりますね。    

後藤 それは、元来、出してはいけない。事前に分かっているわけだから。ダメな業者の営業マンが、「どうして模試と同じような問題を入試で作らないのですか」と大学で言ってしまったという(笑)。本末転倒ですね。模試そのものはアセスメントの要素が強く、標準的な問題しか作らない。ただ、その標準的な問題を大学入試の傾向を見ながら寄せていくわけですね。大学はそれぞれ獲得したい学生を意識して出題するので、必ずしも一般的・標準的な出題にならないし、出題する単元も偏るわけです。

――では最後に、私大文系の入試問題の今後について考えてみたいと思います。

後藤 これまで述べてきたように、「歴史総合」や探究型の「日本史B」「世界史B」での学びに、これからの大学入試は対応していかなければなりません。

 大学入試センターには、日本史と世界史のA科目を課した経験があるので、「歴史総合」でも作問できます。ここの出題方針は強固で、文科省の方針に忠実ですから。

 その点、多くの私立大では、網羅主義を脱した教科科目の見方や考えを問うことができるのか。僕には疑問です。元来は受験生の考えを記述させるべきなのです。しかし、合格発表までの時間が短く、また、評価も難しく、出題できないのです。やがて地理・歴史は、国語や数学などの言語スキルを、歴史や地理のテーマに合わせて問うような総合問題になっていくでしょう。これならばマークシートでも対応できそうです。