テレビ局TBSを退社したのち、プルデンシャル生命保険で「前人未到」の圧倒的な業績を残した「伝説の営業マン」である金沢景敏さん。営業マンになった当初はたいへん苦労しましたが、あることをきっかけに「売ろう」とするのをやめた結果、自然にお客様から次々と「あなたからサービスを買いたい」と連絡が入るようになりました。本記事では、金沢さんの営業手法のすべてを明かした『超★営業思考』では紹介し切れなかった、「部下を動かす」ために最も重要なポイントについてご紹介します(構成:前田浩弥)。

「部下に好かれよう」とする上司が“失敗”する理由写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「部下に好かれよう」などと余計なことを考えない

 どうしたら部下がついてきてくれるか……。

 マネジメントをする立場になれば、誰もが思い悩むことではないでしょうか? 僕自身、起業して社員を抱えるようになって、さんざん悩み抜いてきましたし、いまも、日々悩みながら試行錯誤をしているのが実情です。

 ただ、僕には、ひとつだけマネージャー(上司)として、絶対に外してはならないポイントがあると確信していることがあります。それは、「部下に好かれよう」「部下を動かそう」などと余計なことを考えるよりも、「マネージャー(上司)はどうあるべきか?」を徹底的に考え抜いて、それを愚直にやり通すこと。その結果、部下は自然と力を発揮してくれるようになる、ということです。

 それを教えてくれたのは、新卒で入社したTBSの元上司です。いまでも忘れられないエピソードをご紹介したいと思います。

 僕は、TBSに入社して数年間にわたってスポーツ番組でのディレクターを担当した後、編成という部署へ配属されました。

 編成とは、番組の予算を差配したり、新番組の立ち上げを決めたり、続いていた番組の終了を決めたり、放送する番組の内容を決めたりという、テレビ局のでもとくに大きな権限を持つ部署です。

 そのような部署を束ねていた僕の直属の上司は、仕事にとても厳しく、配属されるなり僕は、何かにつけて怒鳴られる毎日を過ごすことになりました。

 僕は当時、とんでもない“鬼上司”のもとで働くことになってしまったと思いました。毎日、会社に行くのが嫌で仕方なく、「早く上司が替わらないかなぁ」「ほかの部署に異動にならないかなぁ」なんて考えていました。

 しかしある事件を機に、僕は「この上司についていこう」と決意することになります。

「おい、どうなってるんだ!」と激怒する営業局長

 TBSは毎年、有名な飲料メーカーがスポンサーとなっているサッカーの国際親善試合の放送を担当しています。

 実況席の前によく、スポンサー企業の飲み物(缶・瓶・ペットボトルなど)が並んでいるのを見たことがあるでしょう。実は、実況席の前に並べる飲み物の本数は、スポンサー企業、テレビ局、広告代理店の間で事細かな調整を行った上で決められています。

 事前にしっかりと書面にし、関係各社それぞれで判を押して確認するほどに、厳密なものです。僕がはじめてその国際親善試合を担当したときも、その取り決めに応じた数の飲み物が並んでいました。しかし、そのときに思わぬ大問題が発生したのです。

 僕がその現場にいたとき、広告代理店の担当者から「金沢さん、ここにもう1本くらいペットボトル置いてくださいよー」とねだられてしまったのですが、経験の浅い僕は、実況席の前の飲み物がまさかそんなにも厳密な取り決めを経て並んでいるものだとは知らず、「ああ、いいっすよ」と安請け合いして、僕の独断で本数を増やしてしまったのです。

 増えたペットボトルを見て怒ったのが、現場でオンエアを見ていたTBSの営業局長です。血相を変えて、僕や“鬼上司”、そして他部署の人も他社の人もたくさんいる控え室に飛び込んできて、「なんでペットボトルが増えているんだ!」「約束と違うだろ!」「おい、どうなっているんだ!」とまくし立てました。

「やべぇ。おれだ……」

 僕は青ざめました。その場で、僕の直属の“鬼上司”も「おい金沢! どういうことだ!」と怒鳴りだし、営業局長と“鬼上司”の二人からつるし上げられるのを覚悟しました。

“鬼上司”に学んだ大切なこと

 しかし、“鬼上司”の対応は違いました。

「申し訳ありません。私の確認ミスです。後半からすぐに、規定通りの本数に直します」と、その場での全責任を被って、謝罪してくれたのです。その対応で、営業局長の怒りは収まり、僕はひとまず、事なきを得ました。

 その後僕は、個別に、“鬼上司”からこっぴどく叱られました。自分の判断で勝手なことをするなと、こんこんと説かれました。

 でも僕は、これまでになく、素直に聞き入れることができました。保身に走ろうと思えば、「おい金沢!」と僕ひとりを悪者にすることができたのに、怒っている営業局長と、「何が起こったんだ?」と奇異の目で見る他部署の人、他社の人の前で、全責任と大きな恥を被ってくれた。この事実がとても重かったからです。

 そして、“鬼上司”に対する思いが変わりました。「これからはもっと、この上司を助けられる部下にならなければ」と素直に思えたのです。それ以後、僕は、上司が実現させたい仕事を叶えるために、その上司の右腕として進んで社内外を奔走することになり、そこでさまざまな経験をし、多くのことを学ぶことができたのです。

 “鬼上司”は決して、僕に好かれようとして営業局長から守ったわけではないでしょう。おそらく本当に、責任は自分にあると考えていた。「上司とはそういうものだ」と当たり前のように考えていた。ただそれだけだったと推察します。しかしその行動が結果的に、僕のその後の行動を変えるきっかけになりました。

 だから、僕はこう思うのです。「部下に好かれよう」なんて思わなくていい。そんなことをしても、たった一度でも「保身」を図った途端に部下の気持ちは離れます。それよりも、上司としての責任を全うする姿勢に徹することで、部下は自然に動き出すのです。その“鬼上司”の背中は、いまでも僕の心に「かっこいい上司像」として焼き付いています。

「部下に好かれよう」とする上司が“失敗”する理由金沢景敏(かなざわ・あきとし)
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府出身。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍。大学卒業後、TBS入社。テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を設立した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。