王様が離婚するためにつくったイギリス国教会

池上 女王の国葬は、ロンドンのウェストミンスター寺院で執り行われました。ウェストミンスター寺院はイギリス国教会の教会であり、エリザベス女王はイギリス国教会の最高権威者でもあったんですよね。

増田 イギリス国教会というと、プロテスタントに分類されますが、教会を見るだけだと、カトリック教会とほとんど変わらないと思います。見分けがそんなにつくわけじゃないんです。

 イギリス国教会は、ヘンリー8世というわがままな王様が、離婚したいがために始めた宗教とよくいいますよね。

池上 16世紀前半、各国のカトリック教会を統率するローマ教皇庁の権力は絶対で、イギリスもカトリックの国でした。教皇庁から離婚を強硬に反対されたヘンリー8世は、それに反発、それならと国教会をつくり、自分が最高権威者となるんですね。

 さらにローマ教皇庁からの独立に反対するカトリック教会も自分のものにして、膨大な富を手にしました。現在のイギリス王室は、財政的に国家から独立しているのですが、それができるのも、このとき莫大な領地を獲得したからです。ロンドン中心部の土地の多くは王室が持っていて、イギリス王室は大金持ちの大地主なのです。

増田 イギリス国教会は、こうした歴史的背景があるため、戴冠式(たいかんしき)や結婚式、葬儀まで、いまでも英国王室の儀式にカトリックの影響があらわれています。英国王室の儀式は見ごたえがありますよね。儀式を重んじないプロテスタントとは違います。

 英国王室のさまざまな儀式で舞台となるウェストミンスター寺院も荘厳で、教会内部も広くて天井が高く、立派なステンドグラスで彩られています。

池上 イギリス国教会はプロテスタントのはずなのに豪華なのはおかしいなと思ったら、教義の違いによる独立ではなかったので、カトリックの様式を保っているのですね。