新入社員や異動してきた社員など、春は職場に新顔が増える時期です。新しい環境に刺激を受け、イキイキ働く人がいる一方で、なかなか自分の力が発揮できない…という人も少なくありません。上司からすれば、もっとやる気を出して頑張ってほしいと思うものですが、声をかける際には注意が必要。伝え方ひとつで、部下のやる気を一瞬で削いでしまう可能性があるからです。シリーズ累計156万部突破のベストセラー『伝え方が9割』の著者、佐々木圭一さんが、部下のやる気を高め、信頼関係を築くための「伝え方」を教えてくれました。(構成/伊藤理子 撮影/石郷友仁、小原孝博)

部下のやる気が一瞬でなくなる、伝え方の共通点とは?Photo: Adobe Stock

■Case1「もっと自発的に動いて!」

 長らく第一線でバリバリ仕事をこなしてきた上司世代。指示待ちに見える部下の消極的な態度に直面し、じれったさを感じることもあるでしょう。思わず、「もっと自発的に動いてよ」「指示を待つんじゃなくて自分から動いてくれない?」などと言いたくなりますが、経験が浅い部下は「勝手に動いたら怒られるのではないか」「自発的に動いて失敗したらどうしよう」などの不安を抱えています。

 なかには「そもそもどう動くのが正解なのかわからないから、具体的に教えてくれればいいのに」「何なら上司がやって見せてくれればいいのに」などと、上司のマネジメント姿勢に不満や不信感を持ってしまうかもしれません。

 では、何と伝えればいいのか。お勧めしたいのはこのような伝え方です。

◎「加藤君には期待しているんだ。加藤君が考えてやりたいようにどんどん進めて。サポートするから」

 これは、伝え方の技術「認められたい欲」を使った伝え方です。人は「期待している」と言われると、「自分は認められているんだ」と嬉しく感じ、その期待に応えたくなるのです。

 それに続く言葉「加藤君が考えてやりたいようにどんどん進めて」は、実は「自発的に動いて」と同じことなのですが、まず期待を伝えることで受け手の印象がガラリと変わり、自分から率先して動いてくれるようになります。

 そして、「サポートするから」は、伝え方の技術「相手の好きなこと」に当たります。相手の好きなことをもとに伝えると、聞き手に良い印象を与えます。このケースの場合は「期待してくれて、しかもサポートしてくれるんだったら、頑張ろう!」ときっと奮起してくれるはず。

 伝え方を少し変えるだけで、上司に対する部下の印象を「不満や不信感」から「いい上司のもとで働けている喜び」に変えることができるのです。

 なお、「認められたい欲」と「相手の好きなこと」を使った応用編としては、こんな伝え方もあります。

◎「加藤君のことすごく信頼しているから伝えるんだけど。君は将来リーダーになる人材だから、まずは自分の思うようにやってみてほしいんだ。万一の責任は取るから、自由に動いてみて」

◎「加藤君には、ワンランク上の仕事を期待しているんだ。常に一歩先を考えて仕事をしてみると、さらにレベルアップできるよ」

 やってほしいのは「自発的に動くこと」ですが、自分の感情をそのまま伝えても、相手は動いてくれません。人は「○○して!」と上から言われると、誰しも逆に反発したくなるもの。これらの例のように相手が「自分から動いたほうがいいな」と思えるような伝え方をするのがポイントです。

 このように、上司が何気なく発した言葉が、部下の信頼を損ねているケースは少なくありません。今回は、部下のやる気を一瞬で削いでしまう伝え方の事例を、いくつかご紹介していきたいと思います。