かつて松下幸之助や稲盛和夫など、一部のカリスマ経営者の下で実践されてきた「理念経営」だが、いまでは時代感覚にすぐれた人・組織が、ここに大きな可能性を感じているという。実際、注目のキーワードとなった「パーパス」のほか、自社の「ミッション・ビジョン・バリュー」「カルチャー」の見直しを進める企業も多い。
しかし「どこから手をつければ…」と途方に暮れている人・組織も少なくないだろう。そんな悩みを抱くリーダーたちにおすすめの書籍が、株式会社BIOTOPE代表・佐宗邦威氏の著書『理念経営2.0』だ。「本書を読んでいて途中から嫉妬を覚えました」(山口周氏)、「世界で初めて理念経営の諸概念を体系化した本」(入山章栄氏)と絶賛のコメントが寄せられている同書では、「自社らしい企業理念をつくり、それを確実に活かしていくための具体的な方法論」がわかりやすく説かれている。
本稿では、同書より一部を抜粋・編集し、「企業理念をとりまく6つの課題」をご紹介する。

企業理念に「不具合」がある会社の6パターン【御社はいくつ当てはまる?】Photo: Adobe Stock

企業理念をとりまく「6つの課題」

 ビジョン、バリュー、ミッション、そしてパーパスといった企業理念は、企業が1つの「群れ」を形成し続けるためのツールであり、企業が置かれているフェーズによって、どのような理念が必要とされるかは違ってくる。

 しかしいずれにせよ、現代の組織における深刻な問題の多くは、企業理念に関わるなんらかの不具合に由来している。実際、さまざまな企業の理念デザインを支援してきた経験からすると、企業理念に関わる課題は次の2つに大別される。

 ① 企業理念が存在しない
 ② 企業理念が生きていない

 前者に含まれるのは、そもそも理念が定められていないケースだけではない。創業時になんらかの理念がつくられていても、過去に埋もれて忘却されていたり、時代変化に伴って古くなっていたりする場合もある。こういう企業には、まず企業理念の「つくり方」から伝えていく必要がある。

 他方で後者は、立派な理念をつくってはみたものの、それらを組織文化や行動原理、戦略などに落とし込めていないパターンである。言い換えれば、企業理念が「絵に描いた餅」になっているケースだ。こうしたときには、企業理念の「使い方」が求められる。つまり、企業が描いている「理想」を現実の「事業」につなぐための仕組みのデザインである。

 そして、これらの二大課題は、個々の経営者においては、より具体的な悩みのかたちをとることになる。僕のところに相談があった例を見ていくと、それらは次の6つのパターンに分けることができる。前半の3つが「つくり方」、後半の3つが「使い方」におけるつまずきなのだと解釈できる。

悩み①──組織の推進力がない

 外部の環境変化には適応できておらず、事業が惰性で回っている。社内には新しい取り組みに着手する活気がなく、若手社員も目が死んでいる。市場がジリ貧で、将来的に持続可能な事業の柱があるかどうかも疑わしい。新規事業をつくりたいとは思うのだが、どんなものをやればいいかわからず、出てきたアイデアのデメリットばかり見えてしまう。

【こんなときには?】ビジョンをつくったり見直したりすることで、組織のなかに推進力を生み出していく施策が有効になる。

悩み②──組織の一体感がない

 組織が部署の枠を越えて協働する機運が少ないうえに、社員個人の組織に対する愛着が薄い。リモートワークになって、離職していく社員が増えている。

【こんなときには?】バリューに手を入れるべきだ。組織が大事にしている価値観を明確にし、あえて尖ったバリューを定めることで、一体感を生むことができる。

悩み③──組織のなかで合意形成が難しい

 いままでは「売上・利益の大きい仕事=よい仕事」という明確な基準があった。しかし、新規事業やSDGsへの取り組みなどのような売上・利益が予測しにくい案件が増えていくなかで、会社としてどのプロジェクトを優先させるべきか、合意を形成するのが難しくなっており、なかなか意思決定を下せない。

【こんなときには?】ミッションの策定・改定を行うといい。また、多角化した事業を複数持っているときには、それを束ねるパーパスを新たにつくってみるのもいいだろう。結果を読みづらいプロジェクトに対する判断軸が明確になる。