「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】医師としての常識が180度ひっくり返された、ケトン食の効果Photo: Adobe Stock

「ステージⅣ」まで進行したがんが治った

 前々回に50代女性の肺がん患者さんの症例をご紹介しました。果たして、それらの成果がすべて、がんケトン食療法の効果だったのかどうかは、なお議論の余地のあるところです。

 たくさんの専門医の方にかかわっていただき、様々な要因が組み合わさった結果なのかもしれません。

 それにしても、私はそれまで、がん患者さんの治療に携わり、いわゆる「遠隔転移の見られる=ステージⅣ」まで進行した方のがんが治ったケースなど見たことがありませんでした。

 内科医としては、とてもつらいことですが、そうなってしまうと患者さんに寄り添っていくことしかできないという印象がありました。

 しかし、私の医師としての今までの常識は、全くもって180度ひっくり返されたのです。

 内科医としては、「ハンマーで頭をどつかれた」ような衝撃を受けたことを鮮明に覚えています。

 そして、本当にこれらの臨床効果が、がんケトン食療法の結果ならば、「いろいろな人に試してあげたい」と心から思うようになりました。

がん治療をスムーズに進めるケトン食療法

 私たちが開発したがんケトン食療法は、抗がん剤を使ったがん治療による全身倦怠感などを、緩和する可能性があります。

 たとえば、卵巣がん再発でがんケトン食療法を導入した50代の女性です。この患者さんは、2003年に卵巣がんと診断され、子宮や卵巣などを切除されました。

 しかし、2011年に卵巣がんが再発。抗がん剤治療も実施しましたが、2015年9月に腹部CTにて、卵巣がんの2回目の再発と診断されたのです。もう手術はできません。

 10月から少量の抗がん剤投与を繰り返す治療が開始されましたが、11月からがんケトン食療法の導入となりました。

 すると、驚いたことに、ケトン食を導入して1ヵ月ぐらいして、「先生、抗がん剤を打った後も、しんどくないのです」と話されるようになったのです。

 抗がん剤治療に伴う吐き気が減少。吐き気止めの使用回数が当初の1日3回から、次第に1錠、1回だけになりました。

 臨床経過も劇的でした。この方は、比較的血中のケトン体の上昇はゆるやかでしたが、腫瘍マーカーも劇的に低下し、PET-CTでも腫瘍は小さくなり、無事に腫瘍を取り除くことができました。

 最終的には、その後、3回目の再発などがありましたが、7年生存されました。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。