「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。
がんケトン食療法の臨床効果は
「ハンマーで頭をどつかれた」ような衝撃
前回に続いて、あるがん患者さんの事例をご紹介します。
その後、2014年のことです。50代の肺がんの女性が、がんケトン食療法を始めました。その患者さんは、元々はステージⅠで発見され、肺の左下にある下葉切除術が施行され、外科手術でいったん治っていました。
しかし、2年後に突然、言語障害が出現したため、病院を受診したところ、左側頭葉に7cm大の脳転移が認められました。そのため、左側頭葉腫瘤摘出術が施行され、改めて手術で治療されました。
ところが、わずか2か月後に、さらに脳への転移が見つかり、もう外科治療ができなかったため、放射線治療に切り替えました。
そして、いったん、がんが消失したのでご家族のすすめもあり、がんケトン食療法を始めたのです。
再発を繰り返していたため、患者さんの表情も沈みがちでした。
この患者さんにも、最初の患者さんと同じようにケトン食を実践してもらいました。
この患者さんの場合も、低血糖は見られませんでした。血糖値は、80mg/dlあたりで安定している経過でした。
何より驚いたのは、血中ケトン体が最初の1週間で4000μmol/Lという値を示したことです。吐き気などの症状はありません。むしろ調子がよさそうです。そして、ご機嫌で3か月ケトン食を続けたところ、PET-CT検査の結果、がんの再発はみとめられなかったのです。
世界で一番長く
がんケトン食療法を実践することに
そして、がんケトン食療法を続けて5年後、そろそろケトン食をやめてもいいかなと、いったん中止したところ、また、肺がんが再発してしまいました。今度は、肺に胸水貯留の症状で再発しました。そこで改めて、化学療法と並行してがんケトン食療法を再開したところ、またがんは見えなくなりました。
この患者さんは現在(2022年)も、とてもお元気で、ケトン食のこの間の進化を、誰よりも知る人となりました。
最初の導入から約9年、世界で一番長くがんケトン食療法を続けておられます。そして、がんケトン食療法を自然体で楽しまれ、ケトン食料理の名人になりました。
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。