毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。
海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。
この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという
朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する。

ニコンはどのように「サステナビリティ」を「成長のドライバー」にしようとしているのかPhoto: Adobe Stock

航空機の燃料代80億円の削減が見込める!
サステナビリティを企業価値向上に結び付ける取り組み

 母国市場が人口減少や低成長下にある日本企業が「成長」するストーリーを示し、それを世界中の投資家から認めてもらうことは、容易なことではありません。

 ニコンでは、コア技術による社会価値の創造を経営戦略の基軸に据え、サステナビリティ戦略と成長戦略を一体のものと考え、中長期の企業戦略を策定しています。すなわち、光学技術と精密技術というコア技術を活かしたビジネスで、環境課題(E)や社会課題(S)の解決を図り、サステナブルな社会の実現に貢献することで企業としても成長する、そうした姿を目指しています。

 日本トップクラスの高い「守りのESG」の基盤を活かして、「攻めのESG」に転じることで成長していこうと考えているわけです。

 具体的には、すべての事業部やビジネスユニットで、サステナブルな社会・環境の実現に寄与するビジネス展開を、中計の主要施策として落とし込み、実行しているところです。たとえば、ニコンは独自に開発した「光を使った微細加工」で社会のエネルギー効率を高めることで、地球環境問題にチャレンジしようとしています。

 すなわち、日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)などと共同で、ニコンが独自に開発した「光加工機」により、海を高速で泳ぐサメの肌に学んだ微細加工を航空機の表面に施すことで、流体の抵抗を減らし、燃費改善とCO2排出量の削減を実現しようとしているのです。

 具体的には、2023年現在、JAL、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)等と、世界で初めて機体外板の塗膜上にリブレット(サメ肌)加工を施した航空機による飛行実証試験を進めています。

 また、ANAとは、リブレット加工を施したフイルムを貼った「ANAグリーンジェット」という緑色にカラーリングされた飛行機2機でデータ収集をしています(図表1)。理論的には、機体表面の80%にこのフイルムを貼ることによる燃費改善効果は2%、ANAの航空機にすべて採用された場合、航空機燃料9.5万トン、容積にして12.4万キロリットル(25メートルプール260杯分)が削減できるとともに、30万トンのCO2削減に寄与するものと試算されています。経済効果としては、年間80億円の燃料代削減効果が見込まれます。

ニコンはどのように「サステナビリティ」を「成長のドライバー」にしようとしているのか図表1 「サメの肌」に学んだ微細加工で航空機の燃費を改善

 まさに、「地球に優しい」をビジネスで実現し、「サステナビリティ・ESG」と「収益獲得・企業価値向上」を結びつける取り組みです。

 また、オランダのASMLに圧倒的シェアを握られている半導体露光装置についても、世の中を変え得る新技術で何とかシェアを挽回したいと考えています。

 具体的には、フイルムカメラからフイルムがなくなってデジタルカメラになったように、ニコンでは、露光装置からフォトマスクと呼ばれる回路の原板をなくした「デジタル露光機」という新たなアイデアに基づく次世代装置の開発を行っています図表2)。

ニコンはどのように「サステナビリティ」を「成長のドライバー」にしようとしているのか図表2 新技術「デジタル露光機」で挽回を狙う

 フォトマスクをなくすことで資源使用量の削減を実現するとともに、台湾に集中し地政学リスクに晒されている半導体の製造を、各国がそれぞれ自国内で行える少量多品種生産を可能にしたいと考えています。

 このように、ニコンはよりよい地球環境と社会の実現にコア技術で応えたい、サステナビリティ戦略と成長戦略を同時に実現したい、さらに言えば、サステナビリティ戦略を成長のドライバーにしたいと考えており、このことを投資家の皆さんに訴えています。

※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。