糖尿病は正しい予防で
10年寿命が変わる

秋山 先生のご専門である糖尿病はどのように気をつければいいでしょうか。

大西 一にも二にも健康診断や人間ドックの受診です。年1回受けていれば、その年代で、なりやすい病気を一通りチェックしてくれるので、「地盤から崩れる」場合も含めて、何かあれば引っかかります。最近は未受診だったりCやD(要精密検査や要受診などの判定)が付いて放置していたりすると、産業医から連絡が行く会社も増えています。フリーランスや自営業の人も、市町村区で、数百円、千円程度で受けられるのでぜひ利用してほしいです。なお、血糖値に関しては、食前80~100mg/dLが正常、100~200mg/dLくらいまでほとんど症状がなく、300~400mg/dLで頻尿や喉の渇きを訴えるようになりますが、その時点では相当糖尿病の血糖コントロールは悪化しています。空腹時血糖値が150mg/dLでも専門医を受診してほしいです。糖尿病は早期に手を打てば、寿命が10年くらいは変わります。

秋山 産業医は普段なかなか接する機会がなく、人によって専門もまちまちなので、「大したことない症状で相談に来るな」と思われるんじゃないかと敬遠してしまったりして、頼りにくい人も多いと思います。

大西 持病がある人などは主治医がいて、定期的に相談できるので「一病息災」でいられますが、主治医やかかりつけ医がいない人は、企業と契約している産業医に何でも相談していいのですよ。ハードルが高いかもしれませんが、産業医には社員の健康を守る義務があるので、的確なアドバイスをし、専門外なら適切な医師や医療機関を紹介してくれます。

秋山 多少症状を大げさに言うくらいで構わないと心得て、何かあれば積極的に相談しようと思います。

大西 自覚症状がある場合は自主的に受診するからいいのですが、これまでお話ししてきたように、血管系の病で動脈硬化症や糖尿病などは、不健康なのに自覚症状がないのが厄介です。検査で数値を見るしかない。しかも異常な数値でも、本人が無症状で困っていないため、放置されてしまいます。数値異常が出たら、血糖値や降圧剤やコレステロール値を下げる薬を投与して、確実に動脈硬化症の悪化を防ぐことができます。ただ、肝機能の値が悪い場合は、放置すると肝臓がんになるかもしれないけれど、わかりやすい治療法がなく、「お酒を控えましょう、痩せましょう」としか言われなくて、検査の重要性があまり理解されていないのが実情です。

秋山 いずれにせよ、自分の能力ではわからないから、自覚症状がなくても、検査を受け、引っかかれば専門医にかかって適切な治療や助言を受けるということですね。

大西 そうです。元気な方も健康だと過信しないで、がん検診や健診を受けて、何かあれば、医師に相談して、出された薬も飲んでください。ジムのトレーナーに毎月何万円も払っていたりする人もいるでしょう。でも、基本的に70歳未満の医療保険は7割引きが適用されているんですよ(笑)。

秋山 ああ、3割負担でなく、「7割引き」と考えれば、相当お得ですね。

大西 主治医を信頼し、自ら積極的に治ろうとすることで、治癒の力は最大化します。治験の際、比較対象のために、プラセボといって、有効成分が入っていない偽薬を飲むグループを作りますが、当該の薬ほどでなくとも、プラセボで効果があることも珍しくありません。

 その意味で「信じる者は救われる」ではないですが、「医療はまるで宗教」とも思うのです。私を信頼してくださる患者さんの姿を見るたびに、責任の重さをひしひしと感じ、だからこそ、患者さんを正しい治療につなげていけるよういつも十分な正しい知識を持っていなければならないと、日々、自分の知識もアップデートするよう努めています。

秋山 読者が大西先生のような信頼できる産業医や主治医に当たることを祈りつつ、コロナでサボっていた人間ドックの予約をこの後すぐに入れようと思います(笑)。

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<著者プロフィール>
大西由希子
朝日生命成人病研究所 診療部長・糖尿病内科部長 兼 治験部長
東京大学医学部卒 医学博士
1994年東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、同分院、日立製作所日立総合病院で内科研修。2000年東京大学医学系大学院博士課程修了。同年より朝日生命成人病研究所主任研究員、2006年より治験部長。私生活では3児の母で、ママドクターの会を立ち上げ、子どものいる女性医師の支援も行っている。