今、日本社会全体はもちろん、企業などの職場でも従業員の高齢化が進んでいる。管理職は中高年・シニアの部下の健康状態にも配慮しなければ、職場が回らなくなる。加齢による不調のサインをどう見抜けばいいのか。また、男性にとって女性の健康問題はなかなか話題にしづらいが、女性社員の比率が高まるなか、更年期障害を抱える女性への適切な対応も不可欠だ。朝日生命成人病研究所附属医院の医師・大西由希子氏と本連載『組織の病気』著者の秋山進氏が対談し、高齢化する職場で管理職が気をつけるべきこと、女性の健康問題、そして、がんなどの疾病についての予防リテラシーについて語り合った。前編では、中高年の部下の不調、女性の更年期についてどう対処すべきかを大西氏が現場の知見を踏まえて指南した。(医師 大西由希子、プリンシプル・コンサルティング・グループ代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)

若い社員には理解しづらい身体の不調
ミドル・シニアは年齢に向き合おう

医師・大西由希子×プリンシプル・コンサルティング・グループ 秋山進 対談

秋山進(以下、秋山) 今、定年延長などもあって、従業員の平均年齢が上がっています。そうなると、健康上の問題やそれに起因するトラブルも顕在化すると考えられます。シニアやミドル層の部下を持つ管理職は、部下の健康について、何に気をつけるべきなのでしょうか。例えば、工場では、転んで骨折する人が増えて、段差をなくしたりしています。

大西由希子(以下、大西) まず、加齢とともに物理的に運動機能が低下します。例えば、高齢化するほど、足を上げることが苦手になります。大した段差ではなく、点字ブロックのような、若い人が段差と感じない、ちょっとした段差でつまずく頻度が増えます。老眼や白内障などで、小さい字なども見えにくくなる。認知症ではなくても、記憶力が低下し、仕事で必要な新しい知識、概念や製品などの名前を覚えにくくなるといったことが挙げられます。

 また、シニアには経験値や熟練した技能があっても、仕事のスピードは落ちます。若い人はそれを想像できないので、年長者は自ら、その現実を若者たちに伝えていかなくてはなりません。例えば、重要な書類の数字で「6」と「8」を見間違えたということがあっては大変なので、大きい文字で書類を作ってほしいと要望するなどですね。シニアがマジョリティーになると、30代の人が中心の組織の生産性とはまた違ったものさしも必要です。

秋山 誰しも年を取ったとは認めたくないものですけれど、事故やミスを防ぐために、加齢による機能低下と本人が向き合わなくてはなりませんね。ミーティングなどでも、悪気はなくて、寝る中高年をよく見ます。「たるんでいる」とか気合が足りないとかではなく、若い頃のように長時間集中していることができないのでしょうね。

 自分が若い頃は、おじさんたちが何人か集まると、必ず病気自慢から話し始めるのを苦々しく思っていました。でも、当時は今ほどシニアに寛容ではない社会だったので、彼らも、都度そのように主張していなければ、大変だったのかもしれないですね。

 シニアの部下の体調の変化を知るのに、具体的に気をつけるべきサインなどはありますか?