頭のいい人が話す前に考えていることPhoto: Adobe Stock

「それくらい自分で考えて!」と言われたかと思えば、今度は「なんでもっと早く相談しなかったんだ!」と怒られる。どっちが正解なの? と、矛盾した上司の指示に、困惑する人も多いと思います。そこで今回は、こういった「上司とのすれ違い問題」をどう解消するべきか、元デロイトのコンサルタント・安達裕哉さんに書籍『頭のいい人が話す前に考えていること』の20万部突破を記念して特別インタビューを実施します。
「“軽い自己啓発本”と思って手に取った自分を反省するほど、濃い内容」などと話題沸騰中の書籍『頭のいい人が話す前に考えていること』は、コンサル22年の知見を凝縮し、だれでも「頭のいい人」になれる方法を記した一冊。
「指示内容がコロコロ変わる上司」には、どう対処すればいいのでしょう。安達さんに、くわしく教えていただこうと思います!(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

「ちゃんと考えている人」と「考えていない人」の差

――ご著書の「ちゃんと考えた? とよく言うけれど、だれもその“ちゃんと”を具体的に教えてくれない」のくだり、読んでいて、目から鱗でした。私も若手時代、「ちゃんと考えたの?」と怒られることが多くて。「上司が言いたかったのはこういうことだったのか!」と、ようやく腹落ちした気分です。

安達裕哉(以下、安達):ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。私もコンサルタントになったばかりの頃は、「ちゃんと考えてから話して」と指摘されることが多々ありました。

 でも、「ちゃんと考えて」と言われても、具体的にどうすればいいのか、解決策がわからないんですよね。自分では時間もエネルギーもかけて「ちゃんと」考えているつもり。でも、まわりの人からは、考えていないように見られてしまう。

 そこで、「ちゃんと」を行動に落とし込むとどうなるのか? 思考の「量」ではなく思考の「質」を上げるにはどうすればいいのか? を、今回の本では、徹底して掘り下げました。

頭のいい人が話す前に考えていること安達裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。

「指示がコロコロ変わる上司」への対処法

――若手社員にはよくある悩みだと思うのですが、上司の考えをうまく汲み取ることができないとき、どうすればいいでしょうか?

安達:具体的には、どんな場面でトラブルが起きやすいのでしょう?

――たとえば、「〇〇の案件について、~~という企画で進めたいと思っております。こちらで問題ないでしょうか?」と、上司に確認したとしますよね。

安達:はい。

――それに対して、「それくらい、自分で考えてよ。いちいち相談しなくていいよ」と言われるときと、「それじゃダメだよ。なんでもっと早く相談しなかったの?」と言われるときがあり、何が正解なのかわからなくなってしまう、みたいな……。どんな伝え方をすればいいのかな、といつも迷っていました。

安達:ああ、なるほど。それは、もしかしたら、伝え方を工夫すればどうにかなる、という問題ではないかもしれませんね。

「相談するべきときと、相談しなくていいときの判断基準」がはっきりしていないこと自体が問題なので、言い方を変えるというよりも、まずは、上司にとって「相談してほしいこと」と「自分で考えてほしいこと」の違いがどこにあるのか、明確にするといいかもしれません。

 そうだな、私だったら、

「どういう判断基準なのか、再発防止のために教えていただけませんか?」
「基準が言語化されていないと、またお手間をかけてしまうかもしれないので」

 と、ストレートにたしかめると思います。

――そうか。言われてみれば、ストレートな判断基準の確認は一度もしなかったです……。

安達:それで、「そのときの気分だから」って言われたら、もうどうしようもないですけどね(笑)。

 でも、「こういうふうに判断しているよ」と教えてもらえれば、それを書き留めておき、次に判断を仰ぐ際の参考にすればいい。

 その基準に沿って対応していたのに、また問題が起きたときは、「先日確認した判断基準だとこうなっていましたが……」と確認する。「今回は例外的な対応だよ」ということであれば、それもルールに付け加える。

 このように、対応方法をルールとして言語化し、常にアップデートしていくしかないですよね。上司も、その仕事のプロであっても、マネジメントのプロではない場合がほとんどですから、部下に対する対応の仕方を言語化しているわけではないことが多いんです。

部下も上司に「ちゃんと考える」を要求していい

――そうか。はっきりと直球で聞いてしまえばよかったんですね。なんとなく、上司に対しては聞きづらいイメージがあって。

安達:上司の曖昧な判断について、直接聞くことを怖がる人も多いですが、上司に対して、部下側も「ちゃんと考えること」を要求しないかぎりは、こういう誤解は減らないんですよね。

――たしかに。上司だってどんな言い方をしたのか、いちいち覚えてないですもんね。

安達:そうそう、絶対覚えてないんです。上司も人間ですし、多忙ですから、部下に言ったことを事細かく覚えているわけでもない。「指示が矛盾している」という自覚すらなく、「いちいち相談しなくていいよ」というのも、もしかしたら、その場のノリで言ってしまっただけかもしれません。

 部下も、プロとして、上司に対し「ちゃんと考えてください」と要求してもいいんです。

――上司が忙しそうで声かけられないとか、「こんな簡単なことを聞いて怒られないだろうか」と怖くなってしまい、質問できない、という人も多いのではないかと思いますが。

安達:私も上司の反応が怖いことがありました。でも、「またバカにされるんだろうな」と思いながら毎回聞きにいくと、だんだん気にならなくなってくるんです。それに、自分が上司になってわかるようになったことですが、細かいことをいちいち聞きにくるだけで、「仕事ができない人」という評価になることはまずないと思います。

――えっ。そうですか!「できない人」扱いされるんじゃないか、という怖さで聞けない、という人も多いのかなと思っていました。

安達:一番マズいのは、「〇〇〇〇する人」です。